映画「教育と愛国」予告編
2017年にMBSで放送され、ギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞した「映像’17 教育と愛国 ~教科書でいま何が起きているのか~」を、追加取材と再構成により完成させたドキュメンタリー映画。
記者としてMBSで20年以上にわたって教育現場を取材してきた斉加尚代が監督を務め、井浦新が語りを担当する。映画は5月13日より東京のシネ・リーブル池袋やアップリンク吉祥寺ほか、5月14日より大阪・第七藝術劇場で公開。
映画「教育と愛国」が示すもの 「政治の道具」迫る危機 ディレクター・斉加尚代さん
21世紀の日本で、教育と学問の環境が政治によっていかに改変されてきたのか。その意味を改めて問い直す映画「教育と愛国」が来月、公開される。監督の毎日放送(MBS、大阪市)ディレクター、斉加尚代さんへのインタビューを通して、日本の教育やメディアの現状とロシアのウクライナ侵攻の背景を重ねて考えた。【撮影・後藤由耶】2022年4月13日公開
https://eiga.com/movie/96700/
教育と政治の関係を見つめながら最新の教育事情を記録したドキュメンタリー。2017年に大阪・毎日放送で放送されギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞した「映像’17 教育と愛国 教科書でいま何が起きているのか」に追加取材と再構成を施し、映画版として公開。戦前の軍国主義への反省から、戦後の教育は常に政治と切り離されてきた。しかし2006年に教育基本法が改正され、戦後初めて「愛国心」が盛り込まれる。それ以降「教育改革」「教育再生」の名のもとに、教科書検定制度が目に見えない力を増していく。毎日放送で20年以上にわたり教育現場を取材してきた斉加尚代監督が、教科書の編集者や執筆者へのインタビュー、慰安婦問題など加害の歴史を教える教師や研究者へのバッシングなどを通し、教育現場に迫る危機を描き出す。俳優の井浦新が語りを担当。
2022年製作/107分/G/日本
配給:きろくびと
公式サイト:https://www.mbs.jp/kyoiku-aikoku/
INTRODUCTION
イントロダクション
ひとりの記者が見続けた“教育現場”に迫る危機
教科書で”いま”何が起きているのか?
いま、政治と教育の距離がどんどん近くなっている。
軍国主義へと流れた戦前の反省から、戦後の教育は政治と常に一線を画してきたが、昨今この流れは大きく変わりつつある。2006年に第一次安倍政権下で教育基本法が改変され、「愛国心」条項が戦後初めて盛り込まれた。
2014年。その基準が見直されて以降、「教育改革」「教育再生」の名の下、目に見えない力を増していく教科書検定制度。政治介入ともいえる状況の中で繰り広げられる出版社と執筆者の攻防はいま現在も続く。
本作は、歴史の記述をきっかけに倒産に追い込まれた大手教科書出版社の元編集者や、保守系の政治家が薦める教科書の執筆者などへのインタビュー、新しく採用が始まった教科書を使う学校や、慰安婦問題など加害の歴史を教える教師・研究する大学教授へのバッシング、さらには日本学術会議任命拒否問題など、⼤阪・毎⽇放送(MBS)で20年以上にわたって教育現場を取材してきた斉加尚代ディレクターが、「教育と政治」の関係を見つめながら最新の教育事情を記録した。
教科書は、教育はいったい誰のものなのか……。
2017年度ギャラクシー賞・大賞を受賞した話題作が、
最新取材を加えついに映画化!
2017年にMBSで放送された番組『映像‘17 教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか』は、放送直後から大きな話題を呼び、その年のギャラクシー賞テレビ部門大賞、「地方の時代」映像祭では優秀賞を受賞した。
2019年に番組内容と取材ノートをまとめ書籍化(岩波書店刊)。2020年には座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルで上映もされた。これだけ長く注目され続けるのは、多くの人にとって教科書問題が身近であり、またこれからの社会を考えるうえで「教育と政治」の関係が重要であるという証左ではないだろうか。
映画化にあたっては、いくつもの壁にぶち当たりながらも追加取材と再構成を敢行し、語りは俳優・井浦新が担当した。
いまあらたに誕生した映画版『教育と愛国』がいよいよ劇場公開となる。
【テレビ版受賞歴】
―2017年 第55回 ギャラクシー賞大賞
―2018年 第38回「地方の時代」映像祭優秀賞
CHARACTERS 主な登場⼈物
* 吉田 典裕 (よしだ・のりひろ) 日本出版労働組合連合会(出版労連) 教科書対策部事務局長 教科書会社で教科書や教材の編集を担当する一方、出版労連が発行する『教科書レポート』の編集に長く携わり、教科書づくりの現場を最も熟知している存在として知られる。「子どもと教科書全国ネット21」常任運営委員、国際人権活動日本委員会幹事。
* 池田 剛 (いけだ・つよし) 日本書籍元編集者 日本書籍は教科書業界の老舗で、1993~2000年度は東京23区全区の中学校歴史教科書を独占するほどだったが、2001年度採択(2002~2006年度使用)で大幅にシェアを減らし東京23区では2区のみの採用となり経営が悪化、共同印刷の支援で2002年に日本書籍新社が設立されるが、日本書籍自体は2004年に倒産した。
* 吉田 裕 (よしだ・ゆたか) 一橋大学名誉教授 東京大空襲・戦災資料センター館長 1954年生まれ。79年一橋大学院社会学研究科修士課程修了、その後一橋大学社会学部教授に。専門は日本近現代史。研究領域は戦前日本における政治と軍の関係、戦争犯罪研究、日本の戦争責任・戦後処理・歴史認識問題、復員兵の戦後史など多岐。『昭和天皇の終戦史』(岩波新書,1992)や『日本軍兵士』(中公新書,2018)、『兵士たちの戦後史』(岩波現代文庫,2020)など著書多数。
* 伊藤 隆 (いとう・たかし) 東京大学名誉教授 1932年東京生まれ。歴史学者。専攻は日本近現代政治史。特に昭和戦前期政治史研究の重鎮で、多くの近代日本一次史料の発掘や、竹下登・後藤田正晴らをはじめとした「オーラル・ヒストリー」の取り組みで、日本近現代史研究に大きな影響を与えてきた。現在は国家基本問題研究所(理事長:櫻井よしこ)の理事を務めるなど、保守論客の一人としても知られている。
* 松浦 正人 (まつうら・まさと) 元山口県防府市長 1942年中国生まれ。早稲田大学第二政治経済学部卒業。会社勤務を経て、家業の製茶業「株式会社松うら」の経営を継ぐ。防府市議会議員(1期)、山口県議会議員(3期)を経て、1998年、防府市長に就任。2018年まで5期20年にわたって務める。第2次安倍政権の掲げる「教育再生」に連動し、保守系首長が中心となって2014年に結成した任意団体「教育再生首長会議」を立ち上げ、初代会長を務める。
* 平井 美津子 (ひらい・みつこ) 大阪府公立中学校教諭 1960年大阪生まれ。立命館大文学部卒業後、大阪府内の公立中学校の教員に。著書「『慰安婦』問題を子どもにどう教えるか」(高文研,2017)は韓国でも翻訳出版された。原爆孤児や沖縄戦に関する著作もあり、大阪大学や立命館大学の非常勤講師も務める。子どもと教科書大阪ネット事務局長。
* 牟田 和恵 (むた・かずえ) 大阪大学大学院教授 1956年福岡生まれ。社会学者。専門はジェンダー論。09年から10年までNPO法人ウィメンズアクションネットワークで理事長を務めた。現在、衆議院議員杉田水脈氏に対し、研究者3人とともに名誉を傷つけられたとして損害賠償等を求めて京都地裁に提訴、係争中。22年3月大阪大学を定年退任予定。
* DIRECTOR’S NOTE
ディレクターズ・ノート
「教育と愛国」に込めた願い
斉加尚代(本作監督)
2022年2月24日、ウクライナにロシア政府軍が侵攻した。
無辜の民が犠牲になる侵略戦争を世界が目撃した日、映画『教育と愛国』の公開決定という記事がヤフーニュースに流れた。5年前のテレビ番組に追加取材を重ねて完成した映画の情報解禁日に戦争が始まる。想像を絶する衝撃だった。そして、この偶然には深い意味があると感じた。
本作には、第二次世界大戦の被害と加害を記述する歴史教科書が何度も登場する。南京事件や日本軍の慰安婦問題、そして沖縄戦の集団自決。こうした戦争加害の記述をめぐり、右派勢力から攻撃されて倒産した教科書会社がある。その元編集者は「教科書に戦争加害の問題を書かないで、被害の歴史だけを載せるのでは戦争学習にならない」と訴える。
「世界の平和に貢献するという理想の実現は、教育の力にまつべきものである」(要約)と旧教育基本法は謳った。しかし2000年代以降、教科書の記述が政治の力で変えられていく。消されてゆく戦争加害の記述。教科書は誰のためにあるのか。本作の大きなテーマである。
10年前、大阪で開催された「教育再生民間タウンミーティングin大阪」(2012年2月26日)に安倍晋三元総理が登壇した。「(教育に)政治家がタッチしてはいけないものかって、そんなことはないですよ。当たり前じゃないですか」と強調した。松井一郎大阪府知事も参加したこのシンポジウムは当時、MBSニュースで「安倍元総理は教育基本条例案に賛同」との見出しで短く放送されたにすぎなかった。別の記者が取材した素材を5年前に「発掘」しテレビ版『教育と愛国』に採用したのだが、いま振り返れば、地元大阪で行われたこのシンポジウムが政治主導で教育行政へ影響力を及ぼす、いわば出発点であったと思う。教育基本条例案は、その後修正されて大阪府議会を通過。維新の会は「教育再生」の先陣を切る役割を果たしていく。
2006年、改正教育基本法に愛国心条項を盛り込んだ翌年に安倍氏は退陣、その後下野していたが、大阪のこのシンポで活力を取り戻し、第二次政権へ復活の推進力を得たという。 私自身は、この少し前、アメリカの公教育が疲弊する現状をルポ、大阪維新の教育改革は同じ轍を踏むと批判的に報じるニュース特集を2日連続で放送していた。この報道に対し、Twitterの連打で猛烈に非難してきたのが当時大阪市長だった橋下徹氏である。
10年経過したいま、まさか自身で映画を製作することになるなんて、予想だにしなかった。映画制作を目指すテレビディレクターも少なくないが、私はそんな大志を持ち合わせていない記者だった。ところが、政治の流れが意識を変えていったと思う。『教育と愛国』の映画化の話が持ち上がった時も「いや、無理無理」と当初は消極的だった。ところが、新型コロナウイルス禍で公教育の現場がさらに疲弊し、2020年10月、日本学術会議の新会員任命拒否の問題が勃発した時は人生最大のギアが入った。映画の企画書を提出しても社内の協力者は少なく、ときに孤独に苛まれる日々だったと正直に吐露したい。
さらに取材の壁も厚かった。教科書をめぐる攻防を丁寧に描こうと考えたが、「圧力」そのものをカメラに収めることはできない。眼前で命令が下されればよいが、そうはいかない。「忖度」という言葉を教科書編集者は繰り返し使う。教科書検定制度が圧力と忖度の舞台であることが伺えた。
自己規制や自己検閲は、健全な民主主義と相いれない。教科書調査官だった人物や教科書編集者らにインタビューを試みるも拒まれ続けた。取材を受けることが「中立性を疑われる」と釈明する人もいた。
森友学園元理事長の籠池泰典氏に自分が取材したのは、実に19年ぶりだ。傘下の塚本幼稚園の運動会で園児が軍歌を大合唱したと手紙が届いたことからその取材は始まった。幼稚園から少し離れた道路上で保護者に次々と声をかけ、「裏取り」していた時、ビニール傘をさした男性が近づいてきて、「なんで勝手に話を聞くんや!」とその傘を振り下ろして叩かれた。これが籠池氏とのファーストコンタクトである。私は忘れられない。
だが、籠池氏はこの出逢いをすっかり忘れていた。今回の取材時に当時の記憶を尋ねるとMBSニュース特集の内容しか覚えていないという。 そして現在の籠池氏は、歴史教育の被害者に見えた。「自虐史観」を糾弾する運動に関わった彼に歴史教科書の問題点を聞いてみた。「いまや安倍史観になり、人権が後退している」、その答えには驚いた。さらに取材が終ると拙著『教育と愛国』(岩波書店)に私のサインを求めてきた。和解の証と思って丁寧にサインした。
「教育再生」の掛け声のもと変化の波がやってきて、教育や学問の自由が攻撃される現場を見てきた記者として職責を感じていた。「慰安婦」を取り上げる授業の様子が地方紙に掲載されたのを引き金にバッシングされた平井美津子教諭や科研費の研究内容をめぐって「反日学者」と中傷された大阪大学の牟田和恵教授。彼女たちに向かう攻撃は凄まじかった。「反日」という排斥の波が増幅していくリアルをずっと取材してきた私は、平井さんの授業をTwitterで非難する吉村洋文大阪市長(当時)や国会とSNSで槍玉にあげる杉田水脈衆院議員の政治的手法を観察してきた。政治的攻撃や恫喝が日常になる社会は自己規制を強め、ますます重苦しい圧力を増してゆく。教科書の書き換えが政治圧力の象徴のように。
私たちは時代の曲がり角を曲がったのか。民を踏みにじる政治が、まかり通るのはなぜなのか。権力や強者に擦り寄る空気はメディア内部にも漂っている。在阪テレビは維新の政治家との距離が近すぎると問題視されていてMBSも例外ではない。 教育に対する政治の急接近に危険性を感じ、切羽詰まる思いで映画を作った。本作にカタルシスも正解もない。あるのは、語り出してほしいという願いだけだ。
斉加 尚代(さいか・ひさよ)
プロフィール
毎日放送報道情報局ディレクター
1987年毎日放送入社。報道記者などを経て2015年からドキュメンタリー担当ディレクター。 企画、担当した主な番組に、『映像’15 なぜペンをとるのか~沖縄の新聞記者たち~』(2015年9月)で第59回日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞、『映像’17 沖縄 さまよう木霊~基地反対運動の素顔~』(2017年1月)で平成29年民間放送連盟賞テレビ報道部門優秀賞、第37回「地方の時代」映像祭優秀賞、第72回文化庁芸術祭優秀賞など。『映像’17 教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか~』(2017年7月)で第55回ギャラクシー賞テレビ部門大賞、第38回「地方の時代」映像祭優秀賞。『映像’18 バッシング~その発信源の背後に何が~』で第39回「地方の時代」映像祭優秀賞など。個人として「放送ウーマン賞2018」を受賞。著書に『教育と愛国~誰が教室を窒息させるのか』(岩波書店)、『何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から』(集英社新書)。
斉加尚代さんに聞いた:強まる教育への政治介入。この国で今、何が起きているのか〜映画『教育と愛国』
STAFF
スタッフ
監督:
斉加尚代
語り:
井浦 新
プロデューサー:
澤田隆三
奥田信幸
撮影:
北川哲也
編集:
新子博行
録音・照明:
小宮かづき
朗読:
河本光正
関岡 香
古川圭子
タイトル・字幕:
秋山美里
平 大介
音楽協力:
渡邊 崇
中西美有
石上 葵
榊原 凛
中原実優
大阪音楽大学 Daion Lab
音響効果:
佐藤公彦
スタジオエンジニア:
湯浅絵理奈(TBSアクト)
牧野竜弥(TBSアクト)
MA:
勝端順一(サウンズ•ユー)
EED:
岸本元博
映像協力:
TBS
琉球放送
テレビ山口
アメリカ国立公文書館管理課
AP通信
協力:
岩波書店
集英社新書
スペシャルサンクス:
大島 新
木村元彦
李鳳宇
製作協力・宣伝:
松井寛子
宣伝アドバイザー:
加瀬修一(contrail)
宣伝美術:
追川恵子
配給・宣伝:
きろくびと
製作:
映画「教育と愛国」製作委員会
2022年/日本/107分/カラー/DCP
ヒューマントラストシネマ有楽町:16:10-18:05 (107分)
https://news.yahoo.co.jp/articles/f45c7813fa3e4b2479a5b653280eab1693570af7
政治が教育現場を圧迫する驚きの実態 | この20年政治介入を受け続けた教育現場の実態を描いた「教育と愛国」が全国公開。斉加尚代監督にインタビュー|ゲスト:斉加尚代(5/13)#ポリタスTV
【ポリタスTV 5/13】
1⃣政治が教育現場を圧迫する驚きの実態
2⃣この20年政治介入を受け続けた教育現場の実態を描いた「教育と愛国」 @kyoiku_aikoku が本日から全国公開
斉加尚代監督にお話を伺います。 #ポリタスTV
【出演】
斉加尚代(毎日放送 ドキュメンタリー担当ディレクター)
津田大介(MC)
ポリタスTVの番組は次回放送日19時まで見逃し配信、それ以降は下記の有料アーカイブサービスにてご視聴ください。450本以上の過去配信番組(一部ライブ配信番組を除く)がご覧いただけます!
ご加入はこちらから→ https://youtube.com/PolitasTV/join
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ジャーナリストの津田大介が、その時々の時事問題や社会問題、メディア、テクノロジー、文化や芸術などのテーマをやわらかく解説していきます。