上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー
ウィーンと京都で活躍したデザイナー、上野リチ・リックスの世界で初めての包括的な回顧展が京都国立近代美術館で開かれている。壁紙やテキスタイルなどの日用品や室内装飾など多彩なデザインが約370件並び、色彩豊かなリチの世界を堪能できる。
≪会期・会場≫
2021年11月16日(火)~2022年1月16日(日)
休館日:月曜日及び12月28日(火)~1月3日(月)*ただし1月10日(月・祝)は開館
京都国立近代美術館(京都市左京区岡崎円勝寺町)
※2022年2月18日(金)~5月15日(日)三菱一号館美術館(東京)に巡回予定
展覧会特設サイト:https://lizzi.exhibit.jp/
https://www.museum.or.jp/event/102733?fromname
世界初の包括的回顧展「上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー」京都とウィーンの二拠点デザイナー・上野リチの全貌
FELICE ”LIZZI” RIX-UENO DESIGN FANTASY ORIGINATING IN VIENNA
公式サイト:https://mimt.jp/lizzi/
https://lizzi.exhibit.jp


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《プリント服地[野菜]》
1955年頃[再製作:1987年] 京都国立近代美術館
フェリーツェ・リックス(後の上野リチ・リックス|1893-1967)
は、ウィーン工芸学校においてウィーン工房のヨーゼフ・ホフマンらに師事、才能を開花させます。卒業後は同工房に入り、テキスタイルデザインなどを手がけました。彼女のデザインの特徴は、自由な線と生命感あふれる色彩です。鳥や魚、花や樹木といった身近な自然を組み合わせたデザインは人気を博しました。
リチは京都出身の建築家・上野伊三郎と出会って結婚、二つの都市を往復しながら、ウィーン工房所属デザイナーとして活動を続けます。1930年の工房退職後も、テキスタイルだけでなく、身の回りの小物類など、さまざまなデザインに携わりました。個人住宅や店舗などのインテリアデザインに加え、第二次世界大戦後には教育者として後進の指導にもあたっています。
本展は上野リチのデザイン世界の全貌を展観する世界初の回顧展です。リチの大規模コレクションを所蔵するウィーン、ニューヨーク、そして京都から作品が集結します。
上野リチ略年譜

* 上野伊三郎、京都に生まれる。

* フェリーツェ・リックス、ウィーンの裕福なユダヤ系実業家の家庭に生まれる。

* ウィーン工芸学校に入学、ウィーン工房を主宰するヨーゼフ・ホフマンらに学ぶ。

* ウィーンのオーストリア美術産業博物館(現・オーストリア応用芸術博物館/現代美術館)で行われたファッション展に出品。

* ウィーン工芸学校を卒業、ウィーン工房に入りテキスタイルデザインなどを担当。

* パリで行われた現代産業装飾芸術国際博覧会(通称アール・デコ博覧会)に参加。ヨーゼフ・ホフマンの下で働いていた京都出身の建築家、上野伊三郎と結婚。

* 夫・伊三郎の故郷である京都に渡り、上野建築事務所を夫婦で立ち上げる。引き続きウィーン工房に所属し、1935年まで京都とウィーンを往復しながら活動する。

* 上野建築事務所内に「日本インターナショナル建築会」発足。在外会員にブルーノ・タウト、ヨーゼフ・ホフマン、ヴァルター・グロピウスら。
* ウィーン工房を退職。
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* 一年間、ウィーンへ戻る。日本インターナショナル建築会がブルーノ・タウトを日本に招聘。
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* 京都市染織試験場図案部の技術嘱託となる(~1944年)。
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* タウトが勤務していた高崎の群馬県工芸所に伊三郎と共に赴き嘱託となる(~1939年)。
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* 伊三郎が陸軍嘱託建築技師として満州に派遣される。リチも同行し、翌年まで滞在する。
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* 京都市染織試験場より米国に一年間派遣される。
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* 京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)工芸科図案専攻講師となる。
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* 京都市立美術大学を定年退職、伊三郎とインターナショナルデザイン研究所を設立。
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* 京都市の自宅で没。

* 伊三郎が京都市内の病院で没。
(写真上)「ポートレート:上野リチ・リックス(パリにて)」 1924年 京都国立近代美術館
(写真中)「伊三郎とリチ、船上にて」 1924年頃 京都国立近代美術館
(写真下)「ポートレート:上野リチ・リックス(パリにて)」 1920年頃 京都国立近代美術館

* プロローグ
京都に生きたウィーン人
* 第Ⅰ章
ウィーン時代—ファンタジーの誕生
* 第Ⅱ章
日本との出会い—新たな人生、新たなファンタジー
* 第Ⅲ章
京都時代—ファンタジーの再生
* エピローグ
受け継がれ愛されるファンタジー
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プロローグ
京都に生きたウィーン人
フェリーツェ・リックスは、1893年、オーストリア・ハンガリー帝国の首都ウィーンで、裕福なユダヤ系の実業家の家に生まれました。長じてウィーン工房のデザイナーとして活躍していた頃、ヨーゼフ・ホフマンの建築事務所にいた建築家の上野伊三郎と出会って結婚、京都へ移り住みます。本章では、彼女が遺したスケッチブックや彼女のウィーンで撮影されたポートレートなど、日本で活躍したウィーン工房のデザイナー、上野リチの人物像を紹介します。
「ポートレート : 上野リチ・リックス」
1930年代 京都国立近代美術館
第Ⅰ章:ウィーン時代
ファンタジーの誕生
リチは1912年にウィーン工芸学校に入学、ウィーン工房を設立した建築家・ヨーゼフ・ホフマンに師事します。1917年の卒業後、師に誘われてウィーン工房のデザイナーとなり、テキスタイルを中心に創作活動を展開します。彼女のデザインは、ウィーン工房の硬く直線的なデザインを脱し、自然をモチーフとした、柔らかく色彩豊かなものでした。この章では、冒頭で、1903年に設立されたウィーン工房の概要を紹介します。次いで、工房でのリチの師や、先輩、同僚のデザイナーたちの作品の数々、そして好評を博したというリチのテキスタイル・デザインが展示室を彩ります。
《ウィーン工房
テキスタイル・デザイン:農作物》
1923年 豊田市美術館 (前期展示)
《プリント布地デザイン[木立]》
1925-35年頃 京都国立近代美術館
第Ⅱ章:日本との出会い
新たな人生、新たなファンタジー
リチが所属したウィーン工房は、生活を彩る新しいデザインの創出を目指し、1903年に設立されました。工房が大きな影響を受けていたのが、欧米を席捲していた、日本の美術品や工芸品です。工房で活躍していた時、ウィーンにやってきた建築家・上野伊三郎と結婚したリチは、京都へ渡り、京都でもウィーン工房のデザイナーとして次々とデザインを発表しました。彼女は夫の伊三郎が設計した個人住宅や店舗のインテリアデザインを手掛けたり、伊三郎が招聘した建築家、ブルーノ・タウトがデザイン指導を行った高崎の群馬県工芸所に夫婦で赴いて制作を行いました。戦争の足音が迫る中、リチはデザイナーとして活躍を続けます。
《ヨーロッパ最後の港》
制作年不詳 京都国立近代美術館
上野リチ・リックス/上野伊三郎
《スターバー:内装デザイン(1)》
1930年 京都国立近代美術館
第Ⅲ章:京都時代
ファンタジーの再生
リチは1930年にウィーン工房を退職、1935年からは京都市染織試験場の技術嘱託となり、翌年には群馬県工芸所も兼務し、デザイナーとして活動します。特に、京都市染織試験場での仕事は充実しており、テキスタイルはもちろん、化粧ポーチやスキー用手袋などの服飾小物類も色彩豊かで明るく、現在も見る者の心をときめかせます。太平洋戦争終結後は、七宝やテキスタイルで京都の地場産業と協働したほか、夫婦で教育者としての活動を展開します。建築家の村野藤吾に依頼され、教え子たちと描き上げた日生劇場(東京・日比谷)のレストラン「アクトレス」の壁画は、彼女の戦後の仕事の集大成ともいえるものです。本章では、壁画解体後、大切に保存されてきた壁画の一部をご紹介します。
《日生劇場旧レストラン「アクトレス」壁画(部分)》
1963年 京都市立芸術大学芸術資料館
《七宝飾箱:馬のサーカスⅠ》
1950年頃[再製作:1987年] 京都国立近代美術館
エピローグ
受け継がれ愛されるファンタジー
リチは1967年に74歳で生涯を閉じます。しかし、リチによるデザインは、村野藤吾や教え子たちの仕事と共に様々な場所に遺されました。村野藤吾が設計した都ホテル京都(現・ウェスティン都ホテル京都)の貴賓室を彩ったテキスタイル、京都の木屋町にあったカフェ・レストラン「リックス・ガーデン」の装飾ガラスや装飾タイルなど、21世紀の我々がみても心惹かれるデザインが展覧会を締めくくります。上野リチのデザインは、海を越え、時代を超え、強い生命力で我々を捉え続けています。
《旧カフェ・カフェレストラン「リックスガーデン」
(木屋町、京都)の装飾タイル》 1967年以降
京都国立近代美術館

三菱⼀号館美術館内にあるミュージアムショップ「Store 1894」(東京・丸の内)では、
「上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー」展
[会期:2022年2月18日(金)~5月15日(日)]の会期中限定のグッズを多種ご⽤意しました。
※価格はすべて税込
公式図録2,800円
「上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー」展公式図録です。展覧会の内容を網羅し、図版をオールカラーで掲載。国内外の研究者による論文やコラム、リチの年表や関係者の残した言葉も収録しています。
リチの生涯や多彩なデザインを様々な角度から知ることができ、資料としても一級の価値を持つ決定版!雰囲気の異なる絵柄の入った、リバーシブルの帯がついています。気分によって柄を変えてお楽しみください。
仕様
B5判型(変形縦本)並製 本文336P
図版オールカラー、リバーシブル帯付き
発行:朝日新聞社
上野リチ関連書籍
マイ・ファースト・リチ My First Lizzi
上野リチのデザイン
2,420円
ウィーンと京都を拠点に、壁紙やテキスタイルの室内装飾や日用品など、多彩なデザインを手がけてきた上野リチ・リックス(1893-1967)。本書は、リチが作り出したファンタジックな装飾芸術を、壁紙、壁面装飾、七宝、テキスタイル、アクセサリーに分けて紹介。美術、小説、デザインの世界で活躍し独自の道を切り拓いてきた女性たちによる、創造性豊かな作品の眺め方やテキストを手がかりに、リチの魅力に迫ります。
発行:青幻舎
https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/25220
ウィーンと京都で生きたデザイナー。三菱一号館美術館で見る上野リチの「デザイン・ファンタジー」

15:30-16:00 (入場)
講演会「上野リチの仕事:ウィーンからきたデザイン・ファンタジーと京都」
上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー関連プログラム
講演会「上野リチの仕事:ウィーンからきたデザイン・ファンタジーと京都」
日時:2021年12月4日(土) 午後2時~3時半
講師:池田祐子(京都国立近代美術館学芸課長)
会場:京都国立近代美術館 1階講堂
定員:先着50名(予定)・事前申込制
参加費:無料