『春江水暖~しゅんこうすいだん』(グー・シャオガン監督)予告編
変わりゆく世界に生きるある大家族の四季
現代山水絵巻のごとく中国新世代の才能が描いた驚嘆の傑作。
杭州市、富陽。大河・富春江が流れる街。
老いた母と4人の息子、孫娘の恋。
2021年2月11日(木・祝)Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
◆公式サイト→ http://www.moviola.jp/shunkosuidan/
◆『春江水暖~しゅんこうすいだん』公式Twitter→ https://twitter.com/shunkosuidan
2/11公開『春江水暖~しゅんこうすいだん』グー・シャオガン監督コメント動画
大河・富春江が流れる街・富陽の美しい自然を背景に、変わりゆく中国社会の中で懸命に生きる大家族の四季を描いた人間ドラマ。中国のグー・シャオガン監督の長編デビュー作で、2019年・第72回カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれた。再開発のただ中にある杭州市の富陽地区。顧家の家長である年老いた母の誕生日を祝うため、4人の息子や親戚たちが集まる。しかし祝宴の最中に母が脳卒中で倒れ、命は取り留めたものの認知症が進み、介護が必要になってしまう。飲食店を営む長男、漁師の次男、ダウン症の息子を男手ひとつで育てる三男、気ままな独身生活を楽しむ四男ら、息子たちは思いがけず、それぞれの人生に直面することになる。日本でも2019年・第20回東京フィルメックスのコンペティション部門で審査員特別賞を受賞。
2019年製作/150分/G/中国
原題:春江水暖 Dwelling in the Fuchun Mountains
配給:ムヴィオラ
世界中の映画関係者を驚かせた中国新世代の傑作「春江水暖 しゅんこうすいだん」のポスタービジュアルと予告編が、このほどお披露目された。予告編のナレーションは、「ヒプノシスマイク」の毒島メイソン理鶯役で知られる人気声優・神尾晋一郎が担当している。
山水画の傑作「富春山居図」にインスピレーションを得た本作は、グー・シャオガン監督の長編デビュー作。絵巻を広げていくような横移動スクロールのロングテイク、山水画の宇宙を感じさせる超ロングショットなどを使い、大きな変化を迎える中国社会のなかで生きる、市井の大家族の四季を描いている。長編第1作でありながら、第72回カンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品に選出され、第20回東京フィルメックスでは審査員特別賞に輝いている。
杭州市、富陽。大河、富春江が流れる。しかし今、富陽地区は再開発の只中にある。顧家の家長である母の誕生日の祝宴の夜。老いた母のもとに4人の兄弟や親戚たちが集う。その祝宴の最中、母が脳卒中で倒れてしまった。認知症が進み、介護が必要なった母。「黄金大飯店」という店を経営する長男、漁師を生業としている次男、男手ひとつでダウン症の息子を育てながら、闇社会に足を踏み入れる三男、独身生活を気ままに楽しむ四男。息子たちは思いもがけず、それぞれの人生に直面していく。
中国ロック界のカリスマ、ドウ・ウェイの音楽が彩る予告編は、杭州の大河・富春江が流れる富陽の風景、老いた母の誕生日を祝う祝宴、4人の息子たちと孫娘の恋などを活写。「こういうタイプの作品が好き」と語るほど大の映画ファンの神尾が、映像にぴったりと重なる“神声”を披露している。
デビュー作でいきなりカンヌ! 中国新世代グー・シャオガン監督作「春江水暖」21年2月公開
2020年10月20日 22:30
第20回東京フィルメックスでは審査員特別賞!
グー・シャオガン監督の長編デビュー作「春江水暖」(読み:しゅんこうすいだん)が、2021年2月11日から公開されることが決定。あわせて、場面写真がお披露目された。
近年「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」のビー・ガン監督や、わずか29歳で夭逝した「象は静かに座っている」のフー・ボー監督など、中国新世代の監督たちが大きな注目を集めている。それらの監督と同世代のシャオガン監督。「春江水暖」は長編第1作でありながら、第72回カンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品に選出され、世界の映画界を驚かせた。
カンヌ当時、シャオガン監督はまだ30歳。それまでは、たったひとりでカメラを回し、ドキュメンタリーや短編を撮っていたが、本作で初めてクルーを組んだ。劇中の映像は、シャオガン監督の故郷であり、映画の舞台である杭州の、大河・富春江が流れる富陽を描いた14世紀の山水画の傑作「富春山居図」にインスピレーションを得たという。絵巻を広げていくような横移動スクロールのロングテイク、山水画の宇宙を感じさせる超ロングショットなどを使い、大きな変化を迎える中国社会のなかで生きる、市井の大家族の四季を描いている。
杭州市、富陽。大河、富春江が流れる。しかし今、富陽地区は再開発の只中にある。顧家の家長である母の誕生日の祝宴の夜。老いた母のもとに4人の兄弟や親戚たちが集う。その祝宴の最中、母が脳卒中で倒れてしまった。認知症が進み、介護が必要なった母。「黄金大飯店」という店を経営する長男、漁師を生業としている次男、男手ひとつでダウン症の息子を育てながら、闇社会に足を踏み入れる三男、独身生活を気ままに楽しむ四男。息子たちは思いもがけず、それぞれの人生に直面していく。
カンヌ国際映画祭批評家週間ディレクターのシャルル・テッソン氏は「これが第1作となるグー・シャオガン監督の『春江水暖』は、一瞬で、映画を愛する人々を夢中にさせるだろう」とコメント。カンヌでの上映後、ハリウッド・レポーター紙は「グー・シャオガンは中国人監督だが、台湾の監督エドワード・ヤンやホウ・シャオシェンの作品に近い。『春江水暖』はヤンの『ヤンヤン 夏の想い出』やホウの『童年往事 時の流れ』の子どもと言っても過言ではない」と絶賛している。
さらに、今年1月のフランス公開では、中国アート系映画では異例のヒットを記録。映画サイト「allocine」でも、ジャ・ジャンクー監督の名作「長江哀歌(エレジー)」に迫る高評価を獲得している。日本では、第20回東京フィルメックスでも上映され、審査員特別賞に輝いた。
公式サイト:http://www.moviola.jp/shunkosuidan/
杭州市、富陽。大河、富春江が流れる。しかし今、富陽地区は再開発の只中にある。顧<グー>家の家長である母の誕生日の祝宴の夜。老いた母のもとに4人の兄弟や親戚たちが集う。その祝宴の最中に、母が脳卒中で倒れてしまう。認知症が進み、介護が必要なった母。「黄金大飯店」という店を経営する長男、漁師を生業とする次男、男手ひとつでダウン症の息子を育て、闇社会に足を踏み入れる三男、独身生活を気ままに楽しむ四男。恋と結婚に直面する孫たち。変わりゆく世界に生きる親子三代の物語。
これが長編デビューとなる、まだ若い監督の映画が、いきなり2019年カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれた。監督のグー・シャオガンは、山水画の絵巻「富春山居図」にインスピレーションを得て、クラシックでありながら、革新的な映画を完成させた。エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェン、ジャ・ジャンクーの遺伝子を感じさせる新世代の才能として世界に迎えられたのだ。息を呑む横移動スクロールの超ロングテイクや壮大なロングショット。激動の中国に生きる、ある大家族の営みが、まさに絵巻としてスクリーンに広がる。
監督・脚本 グー・シャオガン Gu Xiaogang
1988年8月11日生まれ。浙江理工大学に進学。
最初はアニメ・漫画コースに行きたかったが、希望のコースに行けず、服飾デザインとマーケティングを学ぶ。その後、映画作りに目覚め、北京電影学院社会人コースなどを聴講。ドキュメンタリーや短編劇映画に着手。初長編映画となる本作『春江水暖~しゅんこうすいだん』は2年に渡る撮影期間の後、完成し、デビュー作にして2019年カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれて、大きな話題となる。現在も、映画の舞台である浙江省杭州市富陽に暮らす。
1988年8月11日生まれ。浙江理工大学に進学。
最初はアニメ・漫画コースに行きたかったが、希望のコースに行けず、服飾デザインとマーケティングを学ぶ。その後、映画作りに目覚め、北京電影学院社会人コースなどを聴講。ドキュメンタリーや短編劇映画に着手。初長編映画となる本作『春江水暖~しゅんこうすいだん』は2年に渡る撮影期間の後、完成し、デビュー作にして2019年カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれて、大きな話題となる。現在も、映画の舞台である浙江省杭州市富陽に暮らす。
監督に聞く
故郷が変化する瞬間を残したい。偉大な中華系監督からの影響。
Q この映画を撮ろうと思いついたのはいつごろですか?
監督 北京電影学院で勉強した後、「北京で勉強もしたんだから、これはもう何がなんでも一本映画を撮らなければ」と目標を決めたんです。それから内容を考え始めました。そこで最初に心に浮かんだのが、自分の家族のこと、両親がやっていた料理店のことでした。それで、北京から地元に帰りました。すると、生まれ故郷の街の変化に気がついたんです。2022年にアジア競技大会が開催されるので、それにむけて街全体がアップデートされていました。3つの大きなスタジアムや外国からのゲストや選手が泊まる場所を作るのに、立ち退きや取り壊しがすすみ、街は急激に変化していたんです。僕はドキュメンタリーを作っていた経験から、この瞬間の街を記録することに義務感と言うか、意味を感じました。変化でもあるし、新しい時代の到来でもあると感じました。故郷の急速な変化に強い衝撃を受けたのは、ジャ・ジャンクー監督の『山河ノスタルジア』(2015)の影響もありました。ここで育ってきた人間からすると、目の前で起きている変化は、これまで無かったものだったんです。地元の人間としての意識と、クリエイターとしての意識の両方から、今のこの時代を記録したいと思いました。
その変化を、どう脚本にしていくかというところから、物語や人物の構成を考え始めました。地元に帰る前に両親の料理店を題材にしようと思った時は、単に記憶や思い出を映画にしようと考えただけだったんですけど、街の変化を見た時に時代性を考えるようになりました。そして、この時代をいろんな角度から捉えるべきなのではと思い、そこから(主要キャラクターである)四兄弟が現れました。
(中国インタビューより)
北京から帰った時、故郷に対してよく知っているのに同時によく知らない感覚を感じました。エドワード・ヤン監督は「三つ目の眼」と言いましたが、ヤン監督はアメリカ留学から台湾に帰った時に、都市を見つめる新しい視点を得たと言っていて、それに近い感覚だったんだと思います。
台湾ニューウエーブには大きな影響を受けました。ホウ・シャオシェン監督とエドワード・ヤン監督は、自分の民族文化から世界観を生みだした偉大な監督だと思います。ホウ・シャオシェン監督の中国文人的な美学とエドワード・ヤン監督の都市と時代への視点、そして何よりも二人の監督に共通している現代の家族への慈しみや諦観は僕が作りたいと思った映画に共鳴しています。
山水画の絵巻を映画にしてみたい。
Q 『春江水暖~しゅんこうすいだん』は、中国山水画の傑作「富春山居図」からインスピレーションを受けたそうですね。
「富春山居図」は富陽で描かれた絵画です。中国と西洋はそれぞれの芸術的美学を持っていますよね。どちらが優れている、劣っているということではなく、ただ二つの美学には違いがあるだけです。西洋の絵画における特徴のひとつは空間を表現することですが、中国の伝統的な風景画は、宇宙的な感覚、時の永遠や空間の無限を記録するために、時間と戯れることを試みるのです。
その表現のために、中国絵画は時に現実的な光や影の表現といった他の要素をあえて排します。「富春山居図」の画家、黄公望は常に絵画の焦点を変化させ、統一された完璧な視覚体験の中に様々な角度を取り入れているのです。鑑賞者は絵画の中を流れいき、立ち止まり、自分も空に浮かんで飛んでいるような気分になったり、大地を感じたり、森の中にいるような気持ちになったりします。それは絵画という二次元的なものから解き放たれる経験です。伝統的な絵巻は右から左へとゆっくり観賞します。巻物を進めるごとに少しずつ、更なるイメージやプロットが見えてくるんです。それって何だか映画のようだと思いませんか。
Q 監督はこの映画を作る前から山水画に関心があったのですか?
細々とバイトの仕事をしていた頃、撮影の仕事をもらったんですが、それは書道教室の動画を撮るという依頼でした。そこで教えていたのが若い先生で、書道に始まり、中国の文人や思想についていろいろ教えてくれて、とても触発されました。それで、山水画を含む中国の伝統芸術に目覚めたんです。それから一年くらい経って、故郷の富陽で映画を撮るとなった時、避けては通れない歴史的な遺産が「富春山居図」だったというわけです。
地元を描いた素晴らしい芸術が残されているのですから、この偉大な芸術品がここにある意味や、絵に描かれた場所に今生きていて、この絵をどのように扱うべきなのかを考えました。そして、中国の伝統的な山水画を映画に変換して描いたら、面白いのではないかと考えついたんです。「富春山居図」があったからこそのアイデアです。ただ、脚本を書いている段階では、長い絵巻物を展開していくようなスタイルにできたらいいなと思っていただけで、実際にどうやって撮影し、どうやって絵巻物のように見せるかというのは、クルーと一緒に模索していきました。
Q 監督と意思の共有ができるクルーだったのですね。どのような人たちですか?
経験豊富なスタッフはいませんでした。年齢的には自分と同じくらい、年下の人もいました。アート系映画やネット系のドラマなど劇映画の経験はありましたが、いわゆる商業的な大きな映画システムに入っている人はいませんでした。2年という時間をかけて撮ったというのが、スタッフにも良かったと思います。大体の人の経験値が同じくらいなので、1年目はとにかく撮影ができればいいという感じで、ただ撮影が回るように働くだけで精いっぱいでした。でも2年目になると皆に余裕がでてきて、現場でクリエイティブなことをどんどん発展させられるようになったと思います。
中国の仕事の出世スピードってすごく早いんですね。映画を志す若者も、どんどん上に行こうとして、それこそアシスタントだった人が1年でセカンド助監督になったり、撮影監督になっていたり。そんな中で、2年という長い時間をかけられたことで、皆ゆっくりと自分の仕事を成長させることができたり、経験できたっていうのも良かったと思います。
ロケハンでの突然の雨も映画に取り込みたかった。
Q 夏にジャン先生が泳ぐ横移動のシーンを監督は「横スクロール」と言っているそうですが、あのシーンは、最初は横移動し、岸に上がって奥に移動する二人をカメラが追い、船にまで上がっていきます。こうした見たことのない撮影について、現場スタッフはどう受け止めていました?
皆、僕の考えや願いをなんとか努力してやってくれようとしました。日本はわからないですが、中国国内で言えば、見たことのない絵を撮ろうとか、クリエイティブなことをしようということに、皆、比較的協力的だと思います。新しいアイデアが出ると、非常にエキサイティングになるというか。逆に、よくある撮り方や演出にしようとすると、皆あまりいい反応をしてくれません。僕の映画に最後まで残ってくれた人たちや一緒にやってくれた人たちは、特別な時間や創造性を発揮できる空間を見つけてくれたんだと思います。
Q 映画の冒頭から20分頃の横移動のシーンで、突然雨が降りだすところも素晴らしいんですが、映像がすごく揺れていますね。あれはもっと揺れていた映像をポストプロダクションで修正したのでしょうか?
あのシーンは、おっしゃる通り、すごく手振れがあったので、ポスプロで修正を加えました。実はあの映像は、本番の映像ではなくて、ロケハン中にハンディカムで撮ったものなんです。河の上で船に乗ってロケハンをしていたら、急に雨が降りだして。
夕暮れに近い時間でした。僕はずっと富陽に暮らしてますが、あんなに美しい光景は初めて見たんです。それから陽が射して、天気雨になって、とてもアメイジングだったんです。こういった神様が贈ってくれたような光景は滅多に見られるものではないので、確かに技術的な問題はあったんですけど、あえて本編に入れました。この撮影の時の状況や奇跡の贈り物のような瞬間を、見た方が容認してくれたらいいなと思っています。 この映画全体に関して言うと、「待つ」ということはとても重要でした。真実が降ってくるのを待つような忍耐を、スタッフ皆よくやってくれたと思います。中国の芸術作品でよく使われる「気韻生動」という言葉があるんですね。生命力を宿していて生き生きとした印象を作品に残すことはすごく重要だということです。なので、僕たちの映画も、そうした生命力を宿したものであって欲しいなと思います。
家族・親族・知人をキャスティング。
Q キャストの皆さんは監督のご親戚や地元の知り合いの方たちだと聞きました。それは予算的なものが大きな理由だったのでしょうか?
製作費を節約できるという理由も大きなものでしたが、富陽のある瞬間をリアルに浮かび上がらせるために、また市井の人々の情感を映像に入れるために、実際にそこで生きている人に演じてもらうことが大事だと思ったんです。おばあさんの役と、グーシーはお芝居の経験のある方ですが、長男夫婦は実際に料理店をやっている叔父さん夫婦だったり、自分に近い役を演じることで、いろいろな面で市井の人の現実性を映せたと思います。(各キャストのプロフィールは登場人物を参照)。
プロダクション ファクトリー・ゲイト・フィルムズ Factory Gate Films
2017年に設立された北京を拠点とする制作会社。アート系から商業映画まで幅広いラインナップを手がける。新しい才能の育成に重きをおき、中国と世界中の観客に届けるべくユニークかつハイクオリティの映画の製作を理念としている。 本作以外の主な制作作品に、 「MR.BIG」(TONG Shengjia/2018) 、「DAMP SEASON」(GAO Ming) 、「THE RETURN」(FANG Liang) 『羊飼いと風船』(ペマ・ツェテン監督/2019*2021年1月日本公開)など。
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春江水暖
本作のタイトルである春江水暖という言葉は、宋代きっての文豪で、書家・画家としても優れ、音楽にも通じていた詩人・蘇東坡<そとうば>が、 こよなく愛した富春江の風景をうたった代表的な詩「恵崇春江晩景<えすうのしゅんこうばんけい>」の一節からとられている。
竹外桃花三両枝 春江水暖鴨先知 ロウ蒿満地蘆芽短 正是河豚欲上時
日本語) 竹外の桃花 三両の枝 春江 水暖かなるは 鴨先ず知る ロウ蒿 地に満ち 蘆芽短し 正に是 河豚上らんと欲するの時
意味)竹林の外で桃の花が二枝三枝と開く。春に川の水が暖かくなってきたのを最初に知るのは鴨だ。シロヨモギが岸辺に咲き乱れ、アシが短く芽吹いている。今はちょうどフグが川を遡る時期だ。
富陽<フーヤン>
本作の舞台はシャオガン監督の故郷である浙江省杭州市富陽。撮影もすべて富陽で行われた。この地域は、旅行者や中国文学に親しむ人々に愛される「江南水郷地帯」にある。「江南」とは「長江(揚子江)の南」の意味で、上海近郊の地域一帯の上海、杭州、紹興、蘇州、鎮江などを指す。日本と同様に四季があり、川が流れ、山河豊かな景勝地として古来、多くの芸術作品に描写されてきた。富陽は2014年から杭州市の市轄区に改編されたが、以前は、富陽県として独立していたので、住民は今でも杭州と富陽を区別して呼ぶことが多い。
富春江<ふしゅんこう>
映画の冒頭、次のような言葉で説明されている。
富陽に大河あり 名を富春江という
両岸には“鸛山”と“鹿山” 河は杭州を通り東シナ海へ
元代には黄公望がこの地に隠遁し有名な“富春山居図”を描いた
富春県の歴史は秦代にまで遡る 孫権はここで呉を建国し
その子孫は今も龍門古鎮に居住する
また、グーシーとジャン先生の船の上の披露宴で「私の故郷は富春江、皇帝孫権<そんけん>と郁達夫<いくたっぷ>の故郷」と歌われる場面もある。
*孫権:三国時代の呉の初代皇帝。
*龍門古鎮:富春江の南岸にあり、村の90%以上の住民が孫権の子孫。数多くの明清時代の建築物が保存され、人気の観光地ともなっている。
*郁達夫:1896年12月7日─1945年9月17日。中国近代の小説家、文章家、詩人。
富春山居図<ふしゅんさんきょず>
元代の著名な画家、黄公望<こうこうぼう>(1269-1354)が、富陽を描いた水墨の山水長巻。1350年完成。中国水墨画史上、高い評価を得ている傑作で、日本で最も人気の高い中国絵画のひとつである。
シャオガン監督は、この絵にインスパイアされて、本作を完成させた。
「古来、富陽は隠遁の地とされていて、黄公望もそれに惹かれてやってきました。中国の文人文化には、世俗を離れて桃源郷や山河豊かな地に身を隠すという考えがあり、富陽はそれにぴったりな場所で多くの文人を魅了してきたんです」(監督談)。
[エピソード] 清代初めに焼失の危機にさらされたことがきっかけで、二つに分断された。前半部は「剰山図」と呼ばれ、民間に流れて1956年に浙江省博物館に収蔵され、後半部は「無用師巻」と呼ばれ、半世紀あまり前に故宮南遷文物として台湾に運ばれ、台北故宮博物院に収められたという、いわくのある美術品である。この作品を二つ合わせて展示することが大陸・台湾両岸各界関係者の長年の願いだったが、2011年に、故宮博物院で、60年あまりを経て、ついに1枚の画として展示された。
ル・シネマ1:13:25-16:05 (150分)
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/21_shunkosuidan.html
『春江水暖~しゅんこうすいだん』
大河・富春江が流れる街。老いた母と4人の息子、孫娘の恋。ある大家族の四季と変わりゆく世界。
杭州市、富陽。大河、富春江が流れる。しかし今、富陽地区は再開発の只中にある。顧(グー)家の家長である母の誕生日の祝宴の夜。老いた母のもとに4人の兄弟や親戚たちが集う。その祝宴の最中に、母が脳卒中で倒れてしまう。認知症が進み、介護が必要なった母。「黄金大飯店」という店を経営する長男、漁師を生業としている次男、男手ひとつでダウン症の息子を育てながら、闇社会に足を踏み入れる三男、独身生活を気ままに楽しむ四男。息子たちは思いもがけず、それぞれの人生に直面する。
「これが第一作となるグー・シャオガン監督の『春江水暖~しゅんこうすいだん』は、一瞬で、映画を愛する人々を夢中にさせるだろう。」シャルル・テッソン(カンヌ国際映画祭批評家週間ディレクター)
近年、『ロングデイズ・ジャーニーこの夜の涯てへ 』のビー・ガン監督や、わずか29歳で夭逝した『象は静かに座っている』のフー・ボー監督など、中国の新世代の監督が大きな注目を集めている。それらの監督と同世代で、長編第一作でありながら、昨年のカンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品に選ばれ、世界の映画界を驚かせたのが、グー・シャオガン監督の『春江水暖~しゅんこうすいだん』である。カンヌ当時、まだ30歳。それまでは、たった一人でカメラを回し、ドキュメンタリーや短編を撮っていた青年が、初めてクルーを組んだ初の長編が、カンヌに選ばれただけでも本当に驚かされる。しかも、その映像は、監督の故郷であり、映画の舞台である杭州の、大河・富春江が流れる富陽を描いた14世紀の山水画の傑作「富春山居図」にインスピレーションを得たという、これも驚かされるショットの連続。絵巻を広げていくような横移動スクロールのロングテイクや山水画の宇宙を感じさせる超ロングショットなどを使い、大きな変化を迎える中国社会の中で精いっぱいに生きている、ある市井の大家族の四季を描くという、クラシックでありながら、きわめて革新的で野心的な作品なのだ。
カンヌでの上映後、ハリウッド・レポーター紙は「グー・シャオガンは中国人監督だが、台湾の監督エドワード・ヤンやホウ・シャオシェンの作品に近い。『春江水暖~しゅんこうすいだん』はヤンの『ヤンヤン 夏の想い出』やホウの『童年往事 時の流れ』の子供と言っても過言ではない」と大絶賛。さらに、今年1月のフランス公開では、中国アート系映画としては異例のヒットを記録し、映画サイトallocineでもジャ・ジャンクー監督の名作『長江哀歌』に迫る高評価を獲得したのである。昨年の東京フィルメックスに来日した際には、屈託のない優しげな笑顔を浮かべていたグー・シャオガン監督。あの柔らかい物腰の中のいったいどこに、これほどの才能を秘めているのか不思議になるが、まさに「中国新世代」の驚嘆の傑作、今から楽しみでならない。
https://joji.uplink.co.jp/movie/2020/7168