『羊飼いと風船』予告編
『羊飼いと風船』
チベット映画の先駆者ペマ・ツェテン 待望の劇場公開決定!
第20回東京フィルメックス 最優秀作品賞
2021年1月22日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー!
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監督・脚本:ペマ・ツェテン
出演:ソナム・ワンモ、ジンバ、ヤンシクツォ
配給:ビターズ・エンド
英題:BALLOON 原題:気球
2019 年/中国/102 分/チベット語/ビスタ
©2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.
『羊飼いと風船』冒頭映像
牧畜民の家族に押し寄せる近代化の波。母の胸には秘められた葛藤があった…果たして彼女が選ぶ道とは?
チベット映画の先駆者ペマツェテン監督が、大草原に生きる羊飼い家族の日常と葛藤を描いた作品。チベットの大草原で牧畜を営む祖父・若夫婦・子どもたちの3世代家族。昔ながらの素朴で穏やかな暮らしを送る彼らだったが、受け継がれてきた伝統や価値観は近代化によって変化しつつあった。そんなある日、子どもたちのいたずらをきっかけに、家族の間にさざなみが起こり始める。ペマツェテン監督の前作「轢き殺された羊」で主演を務めたジンパが父親を演じる。2019年・第20回東京フィルメックスのコンペティション部門で「気球」のタイトルで上映され、最優秀作品賞を受賞。
2019年製作/102分/G/中国
原題:気球 Balloon
配給:ビターズ・エンド
https://ja.wikipedia.org/wiki/羊飼いと風船
チベットの作家・映画監督ペマ・ツェテン の映画作品。監督自身の小説を映画化したもので、日本では第20回の東京フィルメックスにおいて『気球』の邦題で上映され、監督の3度目となる最優秀作品賞を受賞。
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/hitsujikai/
INTRODUCTION
チベットの大草原。牧畜をしながら暮らす、祖父・若夫婦・3人の息子の三世代の家族。昔ながらの素朴で穏やかな生活を送っていたが、近代化は進み中国の一人っ子政策の波が押し寄せていた。そんなある日、母・ドルカルの妊娠が発覚する。喜ぶ周囲をよそに、思わぬことで母の心は揺れ動く。伝統的な信仰と変わりゆく社会の狭間に立たされ、次第にすれ違う家族―葛藤の末、彼女が選んだ道とは…
時代に翻弄されながらもひたむきに生きる家族を、時にユーモアを込めて紡ぎ、広大な草原、猛々しい羊たち、厳しい土地で生きる人間のたくましさを圧倒的な映像美をもって映し出した、心揺さぶられる人間ドラマが誕生した。
監督は、作家としても高い実績をもつ、チベット映画の先駆者 ペマ・ツェテン。故郷・チベットの市井の人々に寄り添う眼差しで作品を生み出し、これまでに国内外の映画祭で40以上の賞を受賞。イランの名匠アッバス・キアロスタミや中国のウォン・カーウァイも、その才能に惚れ込み高く評価した。本作もヴェネチア国際映画祭をはじめ、世界中の映画祭に出品され「小説を読むかのような豊かなタペストリー、なかなかこんな映画には出会えない!」(Asian Movie Pulse)「賢明で、叙情的なユーモアに満ちている」(FIVE FLAVOURS)など絶賛評が並んだ。そして、もはや常連となった東京フィルメックスでは、その高いクオリティと 詩的な世界観が評価され、「オールド・ドッグ」(11)、「タルロ」(15)に続き、審査員満場一致で3度目の最優秀作品賞に輝いた。本作が、待望の日本劇場初公開作品となる!
STORY
神秘の地 ・ チベットの大草原で暮らす三世代の家族。
祖父は変わりゆく時代を憂いながらお経を唱え、若夫婦は3人の息子たちを養うため牧畜をして生計を立てている。いたずら盛りの子どもたちは、のびのびと大草原を駆け抜けている。昔から続く、慎ましくも穏やかな日々。しかし、受け継がれてきた伝統や価値観は近代化によって変わり始め、中国の一人っ子政策の波が押し寄せていた。そんなある日、母・ドルカルの妊娠が発覚する。喜ぶ周囲をよそに、望まぬ妊娠に母の心は揺れ動く。伝統的な信仰と変わりゆく社会の狭間に立たされ、次第にすれ違う家族―葛藤の末、彼女が選んだ道とは…
DIRECTOR
Pema Tseden
Photo by Gao Yuan
チベットの監督・脚本家・作家。1969年、中国青海省海南チベット族自治州貴徳県に生まれる。91年、西北民族学院に入学し、在学中に小説家デビュー。「誘惑」「死の色」「タルロ」など、チベット語と中国語で出版され、国内外で数々の文学賞を受賞。英語、フランス語、ドイツ語、日本語、チェコ語、韓国語にも翻訳される。02年には北京電影学院に入学し、文学部で映画脚本と監督学を学び映画製作を始める。故郷の人々の生活に深く迫り、リアルで綿密な描写によって、チベットの「今」を浮き彫りにする作品を次々と発表し、イランの名匠アッバス・キアロスタミや、中国のウォン・カーウァイから賞賛されるなど、高い評価を受ける。主な作品に、「静かなるマニ石」(05)、「ティメー・クンデンを探して」(09)、「オールド・ドッグ」(11)、「タルロ」(15)、「轢き殺された羊」(18)など。ヴェネチア国際映画祭、ロカルノ国際映画祭、トロント国際映画祭など主要な国際映画祭にてノミネート、作品賞、監督賞、脚色賞など 40以上の国内外の賞を受賞している。前作「轢き殺された羊」(18)は第75回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で脚本賞を受賞している。また東京フィルメックスの常連としても知られており、これまで4作品が上映され『羊飼いと風船』で、見事3度目の最優秀作品賞に輝いた。
【フィルモグラフィー】
2004 草原(短編)
2005 最後の防雹師(TVドキュメンタリー)
2005 静かなるマニ石
2008 1983年、パンタロンは風にはためく
2009 ティメー・クンデンを探して
2010 千年の菩薩道 サムイェ寺 パドマサンバヴァの足跡(TVドキュメンタリーシリーズの1作)
2011 オールド・ドッグ
2014 五色の矢
2015 タルロ
2018 轢き殺された羊
2019 羊飼いと風船
監督インタビュー
『羊飼いと風船』は 現実と魂の関係性を探究しています。
チベットの人々は肉体のみが滅び、魂は生き続けると信じています。
仏教の信仰が現代社会と衝突している今、人々は選択を迫られています。
―この映画の着想はどのように得たのですか?
私の意図はシンプルでした。ある日、道を歩いているときに風船が風で浮かんでいるのをみつけました。そこから着想を得て、物語のフレームワークを書き下ろしていきました。そして、すぐに脚本として完成させました。
私は魂と現実の関係性を探究してみたいと思っていました。チベットの人々は人間の魂を不滅のものとして崇め、生まれ変わり(輪廻転生)を信じています。魂が現実と衝突を起こした場面での人間の困難についての物 語を語りたいと思いました。イメージを見て、アイデアを得て、物語が次第に形作られていきました。そして、これは映画にとって素晴らしいテーマになると思ったので、それを脚本として書いていきました。しかし、脚本を北京の検閲に持っていったところ、許諾を得ることができませんでした。おそらくプロットがあまりに直接的な内容だったからだと思います。これではいつまで経っても映画にすることはできないかもしれないと気がつき、私はこれを小説にしました。小説としては、この物語は非常に豊かなものになりました。ある程度の間、寝かせ、いくつか修正を加え、より繊細な脚本にしました。そして再度検閲に持っていったところ無事に通り、最終的に映画を完成させました。
―本作は、チベットの家族たちの貧困と、チベットの女性たちによる伝統的な出産に対しての考えへの反逆の2つを含んでいます。現実の宗教とジェンダーの影響力と状況についてどのようにお考えですか?
今日、ほとんどのチベットの女性たちは伝統的な生活を営み、伝統的な役割を果たしています。彼女たちは信仰を持ち続け、全ての苦労に耐えています。目を覚まし始め、新しい習慣との軋轢の中における彼女たちの困難を想像するのは、難しくはない作業でした。
―この映画は観客にゆだねたラストだと感じました。なぜそのような選択をしたのでしょうか?
物語が流れる中で自然と終わりを迎えました。この結末は、私や多くのチベットの人々によって共有されている困難を乗り越えられることへの希望を表しているのだと思います。
―撮影地について教えてください。
ほとんどのシーンは、青海湖の近くで撮影され、いくつかは私の故郷で撮影しました。ロケーションによって、物語の雰囲気や土地の文化や習慣を伝えています。
―小説の執筆は映画製作に影響を与えていますか?
もちろんです。私の小説執筆の経験は多くの側面で私の映画を豊かにする手助けをしています。文字の言語と、視覚・聴覚の言語は、2つの異なった表現の仕組みです。それぞれが独自の特徴を持っていると思います。
CAST
ソナム・ワンモ Sonnam Wangmo
チベットの舞台俳優。07年に上海演劇学院を卒業。10 年から映画のキャリアをスタートさせ る。主な作品に、「Soul on a String」( 17/チャン・ヤン監督)、ペマ・ツェテン監督の「轢き殺された羊」(18)などがある。
ジンバ Jinpa
詩人としても活躍するチベット人俳優。北京電影学院で演技を学ぶ。14年以降、数々の映画に出演。「Soul on a String」(17/チャン・ヤン監督)に主演し、台湾の金馬奨の新人俳優賞にノミネートされる。ペマ・ツェテン監督作品は、「タルロ」(15)、「轢き殺された羊」(18)に続き3度目 の参加。そのほかに、「ワンダクの雨靴」(18/ ラホワジャ監督) や、日本でも劇場公開した『巡礼の約束』(18/ソンタルジャ監督 ) に出演。常に強い印象を残し、高い評価を集めている。
ヤンシクツォ
幼少期から音楽とダンスを学ぶ。14年から17年まで北京でテレビや映画の演出を学んだ後、歌手 や俳優として活躍している。ペマ・ツェテン監督の「静かなるマニ石」(05)、「タルロ」(15)などに出演。
シネスイッチ銀座:12:00-13:52 (102分)
https://cineswitch.com/movie_detail/羊飼いと風船
胸に秘められた葛藤、彼女はある選択を迫られるー
チベットの大草原に暮らす、牧畜民の家族。昔ながらの素朴で穏やかな生活を
送っていたが、近代化は進み、中国の一人っ子政策の波が押し寄せていた。
ある日、母・ドルカルの妊娠が発覚する。喜ぶ周囲をよそに、思わぬことで母
の心は揺れ動く。伝統的な信仰、牧畜民の現実の狭間に立たされる家族。一体
、本当の幸せとは何なのかー秘められた葛藤の末、彼女が選んだ道とは…
変わりゆく時代に翻弄される家族のジレンマを、時にユーモアを込めて紡ぎ、
広大な草原、猛々しい羊たち、厳しい土地で生きる人間のたくましさを圧倒的
な映像美をもって映し出した、心揺さぶられる人間ドラマ。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021011501050&g=soc
雄大な自然を背景にきめ細やかな人間ドラマが展開する。中国映画「羊飼いと風船」(ベマ・ツェテン監督)は、現代チベットの牧畜民の暮らしを追い、その日常や死生観を含めた彼らの精神文化を鮮やかに浮かび上がらせる。
人々が直面する厳しい現実を直視しつつ、随所に大らかなユーモアも交えたツェテン監督の緩急を効かせた演出が印象的で、昨年開催された国際映画祭「東京フィルメックス」では最優秀作品賞を獲得した。
チベットの大草原で、年老いた父親と3人の息子たちと共に牧畜をしながら暮らすタルギェ(ジンバ)とドルカル(ソナム・ワンモ)夫婦を描く物語。相次いで起こった二つの出来事が、平穏だった彼らの日常にさざ波を引き起こす。
小説家でもあるツェテン監督が自ら執筆した物語は、乗り物が馬からバイクに変わり、テレビなどの家電に囲まれ、携帯電話で連絡を取る現代人としての彼らの側面を見せつつ、家族主義や倫理観を重んじ「輪廻(りんね)転生」を信じてやまない不変の精神性も描いていく。
さりげない日常会話やエピソードから彼らに息づく精神やチベットの文化、価値観をうかがわせる巧みなストーリーテリングにツェテン監督の才能を見る思いがする。観客は知らず知らずのうちに彼らの内面に触れ、チベットの人々や文化への興味を喚起されるに違いない。
その演出は雄大な景色や人物の濃密なやり取りをじっくりと捉える一方、種付けのために借りた雄牛を雌牛の群れに放つくだりでは、短いカッティングで躍動感とユーモアを生み出すなど緩急自在。絵力のある撮影も印象深く、ことにある喪失を経てタルギェが見る、夢とも心象風景ともつかぬ光景は、チベット人が死に抱くイメージを具現化した名場面に仕上がり、強いインパクトを見る者に与える。
◇伝統的な価値観と現実のはざまで苦悩する夫婦
物語の後半、どんな家庭にも起こるごく普通の出来事をきっかけに、主人公の夫婦は宗教に基づく伝統的な価値観と現実とのはざまで苦悩することになる。ここで描かれる葛藤は、チベット人に今も根強く残る死生観や、牧畜民が直面する経済状況、女性に多大な負担を強いる社会のあり方といった問題が複雑に絡み合い、容易な回答を提示しない。
物語も、安易な解決策を示すことなく、観客に問いを投げかけたような形で幕を閉じる。コントのオチのような展開で笑わせながら、ポエティックなシーンに転じて余韻を残すエンディングを目撃した観客の脳裏にはさまざまな思いが渦巻くことだろう。
シリアスなテーマも内包しながら、チベットの開放的な景色や、尼となったドルカルの妹をめぐるサイドストーリー、そして随所にちりばめられた笑いが作品に膨らみを与える。タイトルにもある「風船」をめぐる数々のエピソードはユーモアの最たるもの。夫婦や女性同士で交わされる性をめぐる会話も笑いを誘う。その屈託のないおおらかさも今作の魅力の一つと言えるだろう。
ツェテン監督は今作が日本初公開作だが、これまでベネチアやロカルノなど名立たる国際映画祭への出品経験を持つ俊英。優れたアジア映画を紹介する東京フィルメックスの常連としても知られ、今回を含め3作が最優秀作品賞に輝いている。
自身もチベット族出身で「チベットの現在」を描いた作品を発表してきたが、今作の大人顔負けの存在感を見せる子役の使い方や落ち着いたカメラワークは、小津安二郎作品を彷彿(ほうふつ)とさせ、セクシャルな要素を人間味たっぷりに描くタッチは今村昌平監督にも通じる。筆者には過去の日本映画の名作の遺伝子を受け継いだ作品にも見えた。
「羊飼いと風船」は1月22日公開(時事通信社編集委員・小菅昭彦)。