第72回カンヌ国際映画脚本賞&クィア・パルム賞受賞!
世界各国の映画賞を44受賞、124ノミネート!
燃ゆる女の肖像
18世紀、フランス、ブルターニュの孤島
望まぬ結婚を控える貴族の娘と、彼女の肖像を描く女性画家
結ばれるはずのない運命の下、一瞬の恋が永遠に燃え上がるー。
画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を頼まれる。だが、エロイーズ自身は結婚を拒んでいた。身分を隠して近づき、密かに肖像画を完成させたマリアンヌは、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定される。描き直すと決めたマリアンヌに、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスをはさんで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合ううちに、恋におちる二人。約束の5日後、肖像画はあと一筆で完成となるが、それは別れを意味していた──。
監督は、輝かしい受賞歴を誇るセリーヌ・シアマ。マリアンヌには本作でセザール賞にノミネートされたノエミ・メルラン。エロイーズにはシアマ監督の元パートナーで、セザール賞2度受賞のアデル・エネル。フランスで今最も熱い称賛をまとう女優だ。
そのひとの眼差しを、唇を、微笑みを、そして別れの瞬間の姿を思い出すだけで、息が止まるほど愛おしく切なく、蘇る情熱が命を満たす。そんな鮮烈な恋の、決して消えることのない燃ゆる炎を描く、忘れ得ぬ愛の物語。
監督・脚本:セリーヌ・シアマ「水の中のつぼみ」
出演:アデル・エネル「午後8時の訪問者 」、ノエミ・メルラン「不実な女と官能詩人」
配給:ギャガ
The copyright for the pictures is (c) Lilies Films.
原題:PORTRAIT OF A LADY ON FIRE/2019/フランス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/122分/字幕翻訳:横井和子 <PG12>
『燃ゆる女の肖像』本編映像
<作品情報>
作品名:燃ゆる女の肖像
作品情報ページ:https://www.cinemacafe.net/movies/30913/
【解説】
画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を頼まれる。だが、エロイーズ自身は結婚を拒んでいた。身分を隠して近づき、孤島の屋敷で密かに肖像画を完成させたマリアンヌは、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定される。描き直すと決めたマリアンヌに、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスをはさんで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合ううちに、恋におちる2人。約束の5日後、肖像画はあと一筆で完成となるが、それは別れを意味していた――。
配給元:ギャガ
(C)Lilies Films.
18世紀フランスを舞台に、望まぬ結婚を控える貴族の娘と彼女の肖像を描く女性画家の鮮烈な恋を描き、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィアパルム賞を受賞したラブストーリー。画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から娘エロイーズの見合いのための肖像画を依頼され、孤島に建つ屋敷を訪れる。エロイーズは結婚を嫌がっているため、マリアンヌは正体を隠して彼女に近づき密かに肖像画を完成させるが、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを批判されてしまう。描き直すと決めたマリアンヌに、エロイーズは意外にもモデルになると申し出る。キャンパスをはさんで見つめ合い、美しい島をともに散策し、音楽や文学について語り合ううちに、激しい恋に落ちていく2人だったが……。「水の中のつぼみ」のセリーヌ・シアマが監督・脚本を手がけ、エロイーズを「午後8時の訪問者」のアデル・エネル、マリアンヌを「不実な女と官能詩人」のノエミ・メルランが演じた。
2019年製作/122分/PG12/フランス
原題:Portrait de la jeune fille en feu
配給:ギャガ
https://ja.wikipedia.org/wiki/燃ゆる女の肖像
公式サイト:https://gaga.ne.jp/portrait/
- シャーリーズ・セロン、グザヴィエ・ドランら、今を煌めく映画人が大絶賛
- 生涯忘れ得ぬ痛みと喜びを人生に刻んだ恋を辿る 追憶のラブストーリー
かつてない熱狂と陶酔の幕開けは、2019年のカンヌ国際映画祭だった。 - 天才監督グザヴィエ・ドランを「こんなにも繊細な作品は観たことがない」と夢中にさせた作品、それがセリーヌ・シアマ監督の最新作『燃ゆる女の肖像』だ。カンヌ国際映画祭コンペティション部門でパルム・ドールを受賞した女性の監督は、『ピアノ・レッスン』(93)のジェーン・カンピオンただ一人だったが、シアマは本作で脚本賞と、女性監督としては初となったクィア・パルム賞の2冠に輝いた。近年、エンターテイメント業界で問題視され、カンヌでも変革が叫ばれているジェンダーギャップの課題にも、鮮やかな一石を投じる結果となった。その後も、シャーリーズ・セロンが「この映画を本当に愛しています。4回観ました」とまさに愛の告白をしたり、ブリー・ラーソンが「50年後に残る映画は?」という質問に本作をあげるなど、映画人たちの心を虜にしている。さらに、ゴールデン・グローブ賞と英国アカデミー賞の外国語映画賞ノミネートをはじめ、44受賞&125ノミネートを果たすなど、世界各国の賞レースも席巻。また、海外のWEB メディア「IndieWire」の“世界の批評家304人による2019年ベストフィルム” では第5位に選出され、「Business Insider」の批評集計サイトに基づいた「史上最高の映画ベスト50」にも、『ゴッドファーザー』『市民ケーン』などの名作と、『パラサイト』『ムーンライト』などの現代の傑作と肩を並べてランキングされた。そしてアメリカでは過去公開された外国語映画の歴代トップ20入りを果たす大ヒットとなった。
- 本物を見極める目を持つ者たちが、魂を奪われた必見の一作が、ついに日本でもベールを脱ぐ。18世紀、フランス、ブルターニュの孤島
- 望まぬ結婚を控える貴族の娘と、彼女の肖像を描く女性画家
- 結ばれるはずのない運命の下、一時の恋が永遠に燃え上がる―
画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を頼まれる。だが、エロイーズ自身は結婚を拒んでいた。身分を隠して近づき、孤島の屋敷で密かに肖像画を完成させたマリアンヌは、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定される。描き直すと決めたマリアンヌに、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスをはさんで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合ううちに、恋におちる二人。約束の5日後、肖像画はあと一筆で完成となるが、それは別れを意味していた──。
監督のセリーヌ・シアマは、デビュー作の『水の中のつぼみ』でセザール賞新人監督作品賞にノミネートされるなど、本国フランスでは早くからその才能を評価され、独自の世界観を築いてきた。そして、長編映画4作目となる本作で、名立たるメディアや評論家から「映画史を塗り替える傑作」と最大級の称賛を浴びた。 - マリアンヌには、『英雄は嘘がお好き』のノエミ・メルラン。父親の名前でないと展覧会にも出品できない男性優位社会にありながら、人生を謳歌し芸術に生きようとする女性画家をエモーショナルに演じ、セザール賞ノミネートを含む数多くの賞を獲得した。エロイーズには『スザンヌ』でセザール賞を受賞し、フランスで今最も熱い称賛をまとうアデル・エネル。シアマ監督の元パートナーで、監督は別離の後に、彼女に新境地をひらいてほしいと本作をあて書きしたというエピソードも話題だ。エロイーズの母親の伯爵夫人には、『あなたたちのために』でヴェネチア国際映画祭女優賞を受賞したヴァレリア・ゴリノ。
- 撮影はフランス・ブルターニュ地方の孤島に実際に残っていた城を舞台に行われた。風の吹く草原、波が砕けては散る崖、妖しく揺らめく夜の焚火、そして二人の赤と緑のドレスのコントラストなど、まさに絵画のような映像が、恋人たちの限られた時間を儚くも美しく彩る。
- そのひとの眼差しを、唇を、微笑みを、そして別れの瞬間の姿を思い出すだけで、息が止まるほど愛おしく切なく、蘇る情熱が命を満たす。そんな鮮烈な恋の、決して消えることのない燃ゆる炎を描く、忘れ得ぬ愛の物語。
Production notes
美術史から消された18世紀の女性画家たち
現代を舞台に、子供時代や思春期の少女の揺れる心を描いてきたセリーヌ・シアマ監督。そんな彼女が最新作では、大人の女性の愛と葛藤に迫った。舞台は18世紀で、主人公は女性画家。シアマ監督は、「現代の問題にフォーカスしてきた私が、なぜそれほど時を遡ったのかと聞かれますが、18世紀末は今日から見ても、非常に話題性のある時代です」と説明する。彼女が注目したのは、自分と同じ“ 女性アーティスト” たちだ。リサーチしていく中で、当時、肖像画が流行したことで、多くの女性が絵を描くことを職業としたことがわかる。
それまでシアマ監督は、名声を手にした画家しか知らなかった。マリー・アントワネットの親友で、彼女の肖像画を描いたエリザベート・ヴィジェ=ルブランや、親交の深いゲーテの肖像画を描いたアンゲリカ・カウフマンなどだ。だが、実際は100名ほどの女性画家が成功をおさめ、その作品の多くは有名美術館の所蔵品となっているものの、歴史に書き手の名は残っていない。シアマ監督は、「美術史が女性を見えざる存在にしてきたのです。この忘れ去られた女性画家たちの作品を発見した時、とても興奮しましたが、同時に悲しみも感じました。完全なる匿名性を運命づけられた作品に対する悲しみです。彼女たちの作品に、私の人生に欠けていたものを見つけ、心がかき乱され、深い感動を覚えました」と語る。
そんな経緯から、シアマ監督は女性画家を主人公に据えるが、実在した画家ではなく、空想の人物を作り上げることを選んだ。登場人物を生み出すことを通じて、その時代を生きた、すべての女性に思いを巡らせることができるからだ。最終的にこの時代の画家を専門とする美術社会学者に歴史コンサルタントを依頼し、マリアンヌを1770年の画家としてふさわしい女性に仕立て上げた。
恋愛の光と影を観る者に体験させる脚本
自ら脚本を手掛けたシアマ監督は、恋愛における光と影に迫ろうと決める。恋に落ちる瞬間のときめきと、徐々に高まっていく愛しさの“ 光”と、運命に引き裂かれた愛がもたらす“ 影” を描くのだ。シアマ監督は、「追憶という形をとり、恋愛の思い出に焦点を当てました。過去と現在と時間を二重に構成することで、観客が登場人物の感情を体験することができるように考えました」と解説する。
この時代の女性たちは、自分たちの将来がすでに決められていることは承知していたが、定められた運命以外の体験もしていた。シアマ監督は、「当時は女性たちの欲求が禁じられていたとしても、好奇心旺盛で恋愛することを望んでいたという事実は現在と変わりません。私は、彼女たちの友情や問いかけ、ユーモア、そして走ることへの情熱に報いたかった」と語る。
さらに彼女が目指したのは、対等な関係のラブストーリーだ。社会的な階級や力関係とは関係のない恋愛で、この原則が映画全体を通して貫かれた。主人公と使用人との友情も階級を越えたもので、身分の高い伯爵夫人とも率直に話し合う。
監督の期待を超えたキャスティング
肖像画のモデルとなるエロイーズ役は、シアマ監督が長編映画監督デビュー作『水の中のつぼみ』でタッグを組んだ、アデル・エネルを念頭に書かれた。シアマ監督は、「ここ数年でアデルが実証してきた才能を、この役柄に反映させていますが、彼女に私も知らない新境地を開拓してもらいたいという期待も込めました」と語る。また、撮影現場でのアデルとの対等な関係を、「私は“ミューズ”という概念に終止符を打ちました。互いの創造性で新たな描き方をしています。私たちの現場にはミューズはいません。私たちはお互いに刺激を与える協力者という関係でした」と説明する。
マリアンヌ役には、ノエミ・メルランが抜擢された。シアマ監督は、「マリアンヌはすべてのシーンに登場するので、強い存在感の女優が必要でした。また、彼女とエロイーズを、象徴的で特別な印象のカップルにしたいと思いました。ノエミは毅然としていて、勇敢で情熱的な役者です。正確さと過度な部分を混じり合わせながら、マリアンヌという人物を作り上げてくれました。まるで、マリアンヌが実在の人物のように見えるのは、ノエミのおかげです」と称賛する。
奇跡的に見つかった“城”とすべて手作りの衣装
舞台に使われた城には住人はおらず、修復されたこともなかったため、木造部分や寄木張りの床、色彩などが当時のまま残っていた。この城が映画の核となり、美術チームは家具や小道具、備品、木材、生地などの準備に集中することができた。
シアマ監督は衣装デザイナーのドロテ・ギローと、登場人物ごとの衣装作りに重点的に取り組んだ。衣装にそれぞれの特性を反映させるためには、裁断の仕方や生地、特に重さも重要だった。役柄の社会性や、歴史的事実に関わるだけでなく、締め付けられた衣装を着る女優の演技にも影響するからだ。シアマ監督は、「私はマリアンヌの服には、ポケットが必要だと決めていました。彼女の普段の振る舞いを念頭に置いていたからです。さらに、ポケットがこの世紀の終わりには排除され、女性の衣装から消えてしまうことも大きな理由でした。ポケットのモダンなスタイルが好きだったので、蘇らせたかったのです」と語る。
現代のアーティストが古典技法で仕上げた肖像画
画家の制作プロセス全体を見せるために、絵画を用意する必要があった。シアマ監督は模倣画の作家ではなく、アーティストを探していた。マリアンヌと同じ30歳で、今現在、活躍している画家だ。女性画家に絞って、インスタグラムなどで現代画をリサーチする中で、シアマ監督はエレーヌ・デルメールという画家を見つける。油絵の古典的な技法も学び、19世紀の技法にも精通している画家だ。
編集で合成するのではなく、画家のリアルな動作やリズムを映し出したいというシアマ監督の構想をかなえるために、撮影監督のクレア・マトンは、エレーヌ・デルメールが実際に絵画を制作する様々な段階を、すべて連続で撮影した。その甲斐あって肖像画は、飾りではなく重要な登場人物となり、二人の“ 再会” シーンも彩った。
いつまでも心に響く追憶の曲
本作では音楽は2曲しか使われていない。それも劇伴ではなく、登場人物たちが実際に歌い奏でる音楽だ。まず登場するのは、ヴィヴァルディ協奏曲第2番ト短調 RV 315「夏」。マリアンヌが自分の「好きな曲」だと、ほんの一節をエロイーズに弾いてみせ、二人の心が初めて接近する。そして、その思い出の曲がラストシーンで、圧巻のオーケストラによって奏でられる。愛のささやかな芽生えと壮大な喪失が、鮮やかな対比で演出される。
もう1曲は、夜の焚火のシーンで、集まった女性たちが合唱する歌曲「LaJeune Fille en Feu」。18世紀にふさわしい曲を探したが、求めるものが見つからず、『水の中のつぼみ』や『トムボーイ』も手がけたエレクトロニックミュージックのプロデューサー、パラ・ワンを中心にオリジナルで作られた。一度聴けば耳に残る、非常に印象深い歌詞は、シアマ監督がニーチェの詩から引用した歌詞を、ラテン語で書き起こした。
この2曲を3つのシーンだけで使った理由を、シアマ監督は「脚本を書いている時から、音楽なしで作ることを考えていました。基本的には、当時を忠実に再現したかったからです。彼女たちの人生において、音楽は求めながらも遠い存在でしたし、その感覚を観客にも共有してほしかった」と語る。そのためには、シーンのリズムと配置をよく検討しなければならなかった。二人の関係を、体の動きやカメラワークなど、音楽以外のもので表現することになるからだ。「特にこの映画は、ほとんどがワンショットで構成されているため、演出には細心の注意を払いました」とシアマ監督は振り返る。
最後にシアマ監督は、愛の美しさと共に、この映画で伝えたかったもう一つのテーマについて語る。「美術や文学や音楽などのアートこそが、私たちの感情を完全に解放してくれることを描きました」
Director&Writer/監督・脚本
Celine Sciammaセリーヌ・シアマ
1978年11月12日、フランス、ヴァル=ドワーズ県ポントワーズ生まれ。フランス文学で修士号取得後、ラ・フェミス(フランス国立映像音響芸術学院)の脚本コースで学ぶ。2004年、脚本家としてデビュー。2007年に卒業制作を発展させ制作した長編『水の中のつぼみ』が、第60回カンヌ映画祭「ある視点部門」に正式出品され高い評価を受ける。続く、『トムボーイ』(11)はベルリン国際映画祭のパノラマ部門のオープニング作品として上映され、テディ賞を受賞。さらに、第67回カンヌ国際映画祭監督週間オープニング作品『GIRLHOOD』(14/ 未)では、第40回セザール賞 監督賞・有望若手女優賞・音楽賞・音響賞ノミネート、ストックホルム国際映画祭でグランプリを受賞。また、脚本で参加した『ぼくの名前はズッキーニ』(16)はセザール賞で脚色賞を受賞と、輝かしいキャリアを積み、大躍進を続けている。本作で第72回カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞、また女性監督として初めてクィア・パルム賞を受賞した。
https://ja.wikipedia.org/wiki/セリーヌ・シアマ
ル・シネマ:13:45-16:05 (122分)
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/20_portrait.html
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14728293.html?_requesturl=articles%2FDA3S14728293.html&pn=3
見つめて感じて、2人の愛 映画「燃ゆる女の肖像」セリーヌ・シアマ監督
昨年のカンヌ国際映画祭で脚本賞を得た「燃ゆる女の肖像」が各地で公開されている。18世紀の仏ブルターニュで繰り広げられる、女性2人の短くも深い愛の物語。脚本も手がけたセリーヌ・シアマ監督は「相手を見つめることがテーマです」と語っている。
画家マリアンヌ(ノエミ・メルラン)は、伯爵夫人の娘エロイーズ(アデル・エネル)の肖像画を依頼される。見合い相手に贈る絵だが、エロイーズは結婚を拒んでいた。マリアンヌは彼女を観察しながら、秘密裏に絵を描く。そして描いているうち、2人の間に好意以上の感情が生まれる。
伯爵夫人邸には、顔のないエロイーズの肖像画があり、強い印象を残す。前に雇った画家に、彼女は顔を見せなかったことを表す。「この映画のテーマは視線。つまり相手を見つめ、見つめられることです。エロイーズ自身も最初、フードで顔を隠しています。マリアンヌにも観客にも『彼女の顔が見たい』と感じてほしかった」
愛の物語の舞台となる屋敷は絶海の孤島に立っている。主な登場人物は2人のヒロインと母親、そして召使という女性4人だけだ。「彼女たちを孤立させようと思いました。18世紀のフランスでは、女性は抑圧されていました。しかし社会から隔離された孤島では、マリアンヌもエロイーズも解放されているんです」
2人のヒロインを包む光と影のコントラスト、そして青を基調とした色彩が美しい。「人物それぞれのキャラクターを際立たせるために、衣装などの色使いを考えました。肌の色にも注意を払いました。光が肌に当たっているというよりも、女性たちが自ら光を放っているように見える絵作りを心がけました」
2013年にカンヌの最高賞を得た「アデル、ブルーは熱い色」も、女性同士の愛の物語だった。アブデラティフ・ケシシュ監督は2人の性愛場面を濃密に執拗(しつよう)に描写した。しかしシアマ監督はかなりあっさり描いている。「何をどこまで見せるかということはあまり気にしなかった。観客にはエロチックさを感じながら、ユーモアも味わってもらおうと考えていました」(編集委員・石飛徳樹)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66965070T01C20A2BE0P00
本年掉尾(とうび)を飾る傑作だ。女性監督セリーヌ・シアマが、女同士の痛切な愛を描き、映画作家としての高みに上りつめた。昨今流行(はや)りのLGBTものとははっきりと一線を画す、醇乎(じゅんこ)たる芸術作品である。
東京・有楽町のTOHOシネマズシャンテほかできょう公開(C)Lilies Films.
舞台は18世紀フランスのブルターニュ地方。その海の孤島に、若い女性画家マリアンヌが小舟でやって来る。この島の典雅な城館に住む貴族の娘エロイーズの絵を描くためだ。当時は、見合いのために、先方に肖像画を送る習いだった。
マリアンヌは身分を偽ってエロイーズの散歩の相手となり、昼間はエロイーズを観察し、夜は隠れて肖像画の絵筆を走らせる。一度も笑わなかったエロイーズだが、マリアンヌがヴィヴァルディの「夏」の一節を鍵盤で奏でると、初めて笑みを洩(も)らした。
最初の肖像画は失敗したものの、身分を明かしたマリアンヌは、エロイーズの同意を得て、絵の制作に没頭する。夜、二人は蝋燭(ろうそく)や暖炉の火のもとで音楽や文学について語りあう。まもなく深く激しく愛しあうようになるが、絵が完成すれば別れが待っている……。
単純な物語だが、脚本がよく練られており、二人の女性の愛の深まりを、運命の必然的な歩みだと確かに納得させられる。
主演女優の二人は、最初は愛らしさに欠けるかと思えるが、しだいに内側から照らしだされるようにぐんぐん美しさを増し、愛の神秘を実感させる。
画面作りがつねに正確に決まっていることも特筆したい。そして、静謐(せいひつ)な画面なのに力がこもっている。一見クールなのに、底に情念が滾(たぎ)っている。
18世紀の話だが、城館のロケも、室内の美術も、簡素化された衣裳(いしょう)も、ロココ趣味の紋切型(もんきりがた)をはるかに脱し、撮影と照明の見事さと相まって、見ていてなんともいえぬ映画的快楽を与えてくれるのである。2時間2分。
★★★★★
(映画評論家 中条 省平)