9.25公開「鵞鳥湖の夜」予告編
2020.9.25(金)公開『鵞鳥湖(がちょうこ)の夜』予告編(ナレーション:村上淳/中村優子)
『薄氷の殺人』ディアオ・イーナンが描く、革新的ノワール・サスペンス
監督・脚本:ディアオ・イーナン『薄氷の殺人』 撮影:トン・ジンソン『薄氷の殺人』 照明:ウォン・チーミン『花様年華』『2046』、美術:リュウ・チアン『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』
出演:フー・ゴー、グイ・ルンメイ、リャオ・ファン、レジーナ・ワン
「薄氷の殺人」で第64回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した中国の気鋭ディアオ・イーナン監督が、中国社会の底辺で生きる人間たちの現実を鮮烈な映像で描いたノワールサスペンス。2012年、中国南部。再開発から取り残された鵞鳥湖(がちょうこ)周辺の地区で、ギャングたちの縄張り争いが激化していた。刑務所を出て古巣のバイク窃盗団に戻った男チョウは、対立組織との争いに巻き込まれ、逃走中に誤って警官を射殺してしまう。全国に指名手配された彼は、自身にかけられた報奨金30万元を妻子に残すべく画策。そんな彼の前に、見知らぬ女アイアイが妻の代理としてやって来る。鵞鳥湖の水辺で娼婦として生きる彼女と行動をともにするチョウだったが、警察や報奨金強奪を狙う窃盗団に追われ、後戻りのできない袋小路へと追い詰められていく。「1911」のフー・ゴーが主演を務め、「薄氷の殺人」のグイ・ルンメイ、リャオ・ファンが共演。2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。
2019年製作/111分/PG12/中国・フランス合作
原題:南方車站的聚会 The Wild Goose Lake
配給:ブロードメディア・スタジオ
公式サイト:http://wildgoose-movie.com
Introduction
2019年の第72回カンヌ国際映画祭で話題をさらったのは、最高賞パルムドールを制したポン・ジュノ監督作品『パラサイト 半地下の家族』だったが、もう1本、アジア発の衝撃をカンヌにもたらして絶賛を博した映画があった。それが2014年の『薄氷の殺人』でベルリン国際映画祭金熊賞、銀熊賞(男優賞)をダブル受賞した中国の気鋭監督、ディアオ・イーナンの5年ぶりとなる待望の新作『鵞鳥湖(がちょうこ)の夜』である。
中国北部の地方都市を舞台に、未解決連続殺人事件への関与が疑われる美しき未亡人と、彼女に心奪われていく元刑事の運命を描き上げた『薄氷の殺人』は、生々しいリアリティと不条理な悪夢性がせめぎ合うサスペンス・ミステリーの傑作で、日本でも多くの観客を魅了した。そのイーナン監督がフランスとの合作で完成させた今回の新作では、ノワール調のアーティスティックな映像感覚がいっそう研ぎ澄まされ、警官殺しの逃亡者となった男と謎めいたファムファタールが織りなす危ういクライム・ストーリーから、一瞬たりとも目が離せない。
刑務所を出所して古巣のバイク窃盗団に舞い戻った裏社会の男チョウが、縄張りをめぐる揉め事に巻き込まれ、逃走中に誤って警官を射殺してしまう。たちまち全国に指名手配され、警察の包囲網に追いつめられたチョウは、自らに懸けられた報奨金30万元を妻のシュージュンと幼い息子に残そうと画策する。そんなチョウの前に現れたのは、妻の代理としてやってきたアイアイという見知らぬ女。リゾート地の鵞鳥湖で水浴嬢、すなわち水辺の娼婦として生きているアイアイと行動を共にするチョウだったが、警察の捜索を指揮するリウ隊長、報奨金の強奪を狙う窃盗団に行く手を阻まれ、後戻りのできない袋小路に迷い込んでいくのだった……。
物語の設定上は中国南部となっているが、実際には中部の湖北省武漢市で撮影を行った映像世界は、夜間シーンが大半を占めている。その暗闇の魅惑に満ちたヴィジュアルは、光と影の強烈なコントラスト、極彩色のライトや蛍光ネオンサインが照らす妖しいムードが際立ち、観る者を夢幻的にして迷宮的な陶酔へと誘っていく。1940年~1950年のハリウッドで量産されたフィルムノワールに精通し、シャープでモダンな独自の感性をも持ち合わせたディアオ・イーナン監督の革新的な演出スタイルに驚嘆せずにいられない。『薄氷の殺人』に続いてイーナンとコンビを組んだ撮影監督トン・ジンソン、ウォン・カーウァイ監督作品『花様年華』『2046』の照明監督ウォン・チーミン、『迫り来る嵐』『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の美術監督リュウ・チアンといったスタッフの優れた仕事も特筆ものである。
さらに、中国の知られざるアンダーグランドの犯罪や社会の底辺で生きる人間たちの現実をあぶり出した本作は、本国の興収チャートで初登場2位を記録する異例の大ヒットを飛ばした。孤独なアウトサイダーである主人公の男女、警察の捜索チーム、バイク窃盗団のギャングの行動が交錯していくストーリー展開は、フラッシュバックを導入した幻惑的な語り口、湖や雨などの“水”をフィーチャーしたロケーション、ダイナミックで切れ味鋭いアクション・シークエンスと相まって、とてつもなく濃密なサスペンス、エモーションを創出している。
主要キャストには中国語圏のトップスターが揃った。主人公チョウに扮し、破滅的な運命に魅入られた男のあがきを熱演するのは、ジャッキー・チェンと共演した歴史大作『1911』や数々のTVドラマで活躍するフー・ゴー。そして『薄氷の殺人』で主演を務めたグイ・ルンメイとリャオ・ファンが、それぞれアイアイ、リウ隊長役で再共演を果たしている。とりわけショートヘアの華奢な体に赤や黒のコスチュームをまとい、ミステリアスではかなげな宿命の女を体現したグイ・ルンメイの抗いがたい魅力は、しばし脳裏に焼きついて離れない。
Story ストーリー
中国南部。じっとりと雨が降りしきる夜、警察に追われているバイク窃盗団の幹部チョウ・ザーノン(フー・ゴー)が、郊外の駅の近くで妻のヤン・シュージュン(レジーナ・ワン)の到着を待っていた。しかし胸に深い傷を負っているチョウの前に現れたのは、赤いブラウスをまとった見知らぬ女だった。彼女はリゾート地である鵞鳥湖の娼婦リウ・アイアイ(グイ・ルンメイ)。なぜシュージュンの代わりに、美しくも謎めいたアイアイがここにやってきたのか。しばし用心深く互いの真意を探り合ったのち、チョウは重い口を開き、自分の人生が一変した2日前の出来事を語り始めた。
夜、刑務所から出所して間もないチョウは、自らが所属するバイク窃盗団の技術講習会に顔を出した。ところが会場のホテルで指南役のマーが、数十人もの構成員に担当区域を割り振っている最中、思わぬ揉め事が発生。若く血気盛んな猫目・猫耳の兄弟が、古株のチョウがリーダーを務めるグループに因縁をつけ、チョウの手下の金髪男が猫耳に発砲してしまったのだ。
仲裁に入ったマーの提案でチョウと猫目・猫耳の両グループは、制限時間内に何台のバイクを盗めるかを競う勝負を行うことになった。しかしその真っ最中、猫目が卑劣なトラップを仕掛けて金髪男を殺害し、チョウの胸にも銃弾をお見舞いする。からくも猫目の追撃を交わしたチョウだったが、バイクでの逃走中、視界不良の路上で誤って警官を射殺してしまう。
警察は総力を挙げ、警官殺しの容疑者チョウを全国に指名手配し、30万元の報奨金をもうけて一般市民からの通報を募った。最新の捜査情報によれば、動物病院で手当を受けたのちに姿を眩ましたチョウは、鵞鳥湖の周辺に潜伏しているらしい。再開発から取り残された町や無人の森が広がっているこの一帯の捜索を担当するのは、凄腕のリウ隊長(リャオ・ファン)率いる精鋭チームだった。
この日、鵞鳥湖の畔で観光客相手の娼婦をしているアイアイは、“水浴嬢”と呼ばれる彼女たちの元締めであるホア(チー・タオ)から、ある依頼を受ける。それは逃亡中のチョウが会いたがっている彼の妻シュージュンを捜し出すことだった。
監督・脚本:ディアオ・イーナン Yi’nan Diao
https://ja.wikipedia.org/wiki/ディアオ・イーナン
https://mainichi.jp/articles/20201002/k00/00m/040/355000c
http://indietokyo.com/?event_blog=『鵞鳥湖の夜』ディアオ・イーナン監督メールイ
Kinocinema横浜みなとみらい:12:20-14:15 (111分)