予告編
農民たちの姿を描いた19世紀フランスの画家ミレーの絵画を彷彿させる田園風景の中、第1次世界大戦を背景に、夫や息子を戦場に送り出した女たちの静かな戦いと、渦巻く思いを描いた人間ドラマ。フランスの名女優ナタリー・バイと娘のローラ・スメットが劇中でも母娘役を演じ、映画初共演を果たした。1915年、第1次世界大戦下のフランス。2人の息子を西部戦線に送り出した農園の未亡人オルタンスと、同じように夫が戦場にとらわれている娘のソランジュ。冬を前に種まきに備えなければならない2人は、若い働き手のフランシーヌを雇う。誠実なフランシーヌはすぐにオルタンスらの信頼を得て、家族同然に暮らし始める。やがて前線から一時休暇で帰ってきたオルタンスの次男ジョルジュも、フランシーヌにひかれていくが……。監督は、カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作「神々と男たち」などで知られるグザブエ・ボーボワ。2017年・第30回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門では「ガーディアンズ」のタイトルで上映された。
Introduction & Story
男たちの銃後を守る女たちの戦いと、
寡黙な彼女たちの胸に渦巻く思いを
静謐な田園風景の中に鮮やかに浮かび上げる傑作
1915年、第一次世界大戦下のフランス。ミレーの絵画を思わせる美しい田園風景。2人の息子を西部戦線に送り出した農園の未亡人オルタンスは、やはり夫を戦場にとられている娘ソランジュとともに、冬を前に種まきに備えなければならない。オルタンスは若い働き手フランシーヌを雇い入れる。誠実な彼女は女主人の信頼を得て、家族同然に暮ら始める。女たちだけでなく、前線から一時休暇で帰ってくる次男ジョルジュもまた慎ましやかなフランシーヌに惹かれてゆくが・・・。
美しき母ナタリー・バイと娘ローラ・スメットの初共演そしてスクリーンの光りを集める新進女優
イリス・ブリーが彗星のごとく登場
オルタンスとソランジュを演じるのは、フランスを代表する女優ナタリー・バイと、その娘ローラ・スメット。今回、映画初の共演で母娘役を演じている。そして、スタッフにより発掘され、演技経験もないまま堂々フランシーヌを演じたのはイリス・ブリー。実の母娘で演じるオルタンスとソランジュに対し、未来の女性像を強く、瑞々しく表現した彼女は本作でセザール有望新人賞にノミネートされた。
『神々と男たち』(10)の鬼才と名手の
名コンビが描く、女たちの戦場のドラマ
フランシーヌに寄り添う亡き名匠
ミシェル・ルグランの愛の旋律
監督は『神々と男たち』でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞したグザヴィエ・ボーヴォワ。コンビを組む撮影監督はキャロリーヌ・シャンプティエ。ヨーロッパの話題作を数多く手掛ける名手だ。そして本作を作るに当たって、アルジェリア戦争と『シェルブールの雨傘』を思い描いた監督ボーヴォワは、音楽監督にミシェル・ルグランを招いた。静謐な映画の中、フランシーヌの愛の時間を彩るテーマなど、まさに亡き名匠から届く贈り物のようである。
公式サイト:http://moribito-movie.com
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ Xavier BEAUVOIS
1967年3月20日
パ・ド・カレー生まれ。映画批評家ジャン・ドゥーシェとの出会いで映画界に入る。アンドレ・テシネ、マノエル・ド・オリヴェイラの撮影に参加、「Nord (原題)」(89)で長編デビューを果たす。1995年に『N’oublie pas que tu vas mourir (原題)』でカンヌ国際映画祭審査員長とジャン・ヴィゴ賞を受賞。ブノワ・マジメルやナタリー・バイ出演の『マチューの受難』(01)、そして3 作目となる『神々と男たち』(10)でカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ、セザール賞作品賞を受賞し、フランスで300 万人の観客動員数を記録した。最近の作品には『チャップリンからの贈り物』(14 )がある。また、監督のみならず俳優としても活躍しており、ジャック・ドワイヨン監督の『ポネット』(96)、フィリップ・ガレル監督『夜風の匂い 』(99 )、ブノワ・ジャコー監督『マリー・アントワネットに別れを告げて』(12)、『永遠のジャンゴ』(17)などがある。
フランス北部に位置するオシェル出身。在ローマ・フランス・アカデミーで映画を学び、マノエル・デ・オリベイラやアンドレ・テシネの作品に参加しながら、短編映画を制作する。自ら主演した「Nord」(91)で長編監督デビューを果たし、仏セザール賞新人監督作品賞と有望若手男優賞にノミネート。続く主演・監督作「N’oublie pas que tu vas mourir」(95/英題:「Don’t Forget You’re Going to Die」)でカンヌ国際映画祭の審査員賞を受賞する。その後の作品もベネチア国際映画祭などで高い評価を受け、「神々と男たち」(10)でカンヌのグランプリを受賞した。全ての監督作で脚本も手がけるほか、俳優として「ポネット」(96)、「夜風の匂い」(97)などに出演している。
「神々と男たち」
1996年のアルジェリアで、7人のフランス人修道士がイスラム原理主義者とみられる武装グループにより誘拐・殺害された実在の事件を題材にしたヒューマンドラマ。第63回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを獲得した。アルジェリア山間部にたたずむ僧院で、フランス人修道士たちは地元のイスラム教徒たちと宗派を越えた交流をしながら、平穏な毎日をおくっていた。しかし、アルジェリア軍と原理主義者による内戦が激化したことから、彼らの周囲にも暴力の影が忍び寄り始める。
https://eiga.com/movie/55923/video/
Interviews
グザヴィエ・ボーヴォワ監督インタビュー
Q: この映画のために、あなたは著名な俳優たちで見事な配役をしましたね。ナタリー・バイのように以前も一緒に組んだことがある人たちはもちろん、驚きだったのは、オルタンスに雇われた働き手フランシーヌ役を演じる新人のイリス・ブリーです。彼女の演技は並外れて素晴らしいだけでなく、観客は、フランシーヌが主人公なのだということを次第に理解していきます。
A: フランシーヌが少しずつ重要な存在になっていくというのは本当だ。これは脚本家ではなく、監督が選んだことだったんだ。脚本監督がいて、撮影監督がいて、編集監督がいる。僕は撮影監督だ。映画には魂があると信じるなら、その魂が語り出すのを待たなければいけない。そして、その声に耳を傾け、それに従う覚悟がないといけないんだ。僕がイリスを見たとき、その存在感に圧倒された。だから僕は、彼女に与えられて当然のスペースを与えたんだ。彼女のおかげで、フランシーヌは20世紀初頭の女性になったんだよ。 彼女を見つけるために、無名の人物や新人を対象にキャスティング・セッションを始めた。僕は、1910年代の農民を演じる人を探していたんだ。前腕にタトゥーを入れていて、おべんちゃらを言う女優みたいなのは嫌だった。ある日、キャスティング・ディレクターであるカレン・オトワが、運よく本屋のドアのところでイリスに出くわしたんだ。カレンは彼女を引き止めて、スクリーンテストを受けてみないかと誘った。ほんの数秒の出来事だったんだよ。そのちょっと前でも、ちょっと後でもこの出会いはなかっただろう。その軌跡あなければイリスは映画に出演することはなかったんだ。
Q: あなたはいつも戦争映画に関心をお持ちでした。けれどもこの作品は、それとは異なったものですね。この作品の中では背景としていくつかの戦闘を見せています。それもほとんどが夢の中で起こります。
A: 僕は、『シェルブールの雨傘』は本物の戦争映画だと思っているんだ。戦争自体は見せないけれど、直接戦争に関わらない人たちに及ぶ戦争の影響を見せた。僕はいくらか死体も見せたいと思った。ジョルジュの夢のシーンを撮った時、彼が夢の中で自分自身と戦っていることについに気づく場面があるんだけど、僕は、地面に横たわっている死体を撮るようにカロリーヌ・シャンプティエに頼んだんだ。僕の編集者で妻でもあるマリー=ジュリー・マイユと僕は、それを冒頭のシーンにすることに決めたんだよ。そのシーンには音がなく、どこか優しさがあるんだけれど、それと同時に、言わなければいけないことをはっきりと言っている。それはジャン・ドゥーシェの教訓の一つなんだ。「映画のテーマは、最初のコマのいくつかに現れるべきだ」ってね。
Q:デジタル撮影をすることに決めた理由にはどのようなものがありますか?
A:一般的に言えば、僕は新しいテクノロジーで実験するタイプではない。むしろ映画自体に集中したいんだ。けれども、今度はトライしてみようと思ったんだよ。そのおかげでテイクの時間を超えて好きなだけ長く撮ることができ、驚くほべき結果を得られた。映画の最後に見せるフランシーヌの微笑みは、撮影の最後にイリスがスタッフに見せた微笑み以外の何物でもないんだよ。フィルムだったらそれを捉えることはできなかっただろうね。
Q: ミシェル・ルグランと一緒に仕事をするのは、『チャップリンからの贈り物』に続いて2作目ですね。
A: 僕にとっては、ミシェルと一緒に仕事ができるのはとても幸運なことなんだ。そして僕らは友達になった。この映画では、彼が映画を見てから音楽が必要かどうかを決めることにしたんだよ。そして、フランシーヌの役は音楽があったらいいということがわかった。そして彼女のためのテーマを探した。特にドルメン(巨石の遺跡)でのラブシーンのためにね。
Cast & Staff
ナタリー・バイ
Nathalie BAYE
1948年7月6日ノルマンディ北東部生まれ。自由奔放な画家夫婦の元に生まれる。失読症のため14歳で学業を中断してモナコのダンス学校に編入。ロシアバレエを学ぶため17歳でニューヨークへ渡る。帰国後は一転、舞台を志し、クール・シモン演劇学校、そしてコンセルヴァトワールへ進学する。『夏の日のフォスティーヌ』(72)で映画デビューを果たし、 その後『映画に愛をこめて アメリカの夜』(73)、『恋愛日記』(77)、『緑色の部屋』(78)などフランソワ・トリュフォー監督の作品に出演。また、モーリス・ピアラ監督やジャン=リュック・ゴダール監督らの作品にも早期に出演し、『勝手に逃げろ/人生』(79)ではセザール賞助演女優賞を獲得。90年代に入ると『ポルノグラフィックな関係』(99)でヴェネチア国際映画祭主演女優賞を受賞、『キャッチ・ミー・イフ・ユーキャン』 (02)でディカプリオ演じる主人公の母親を演じた。近年では若い世代の映画監督からもラブコールを受け、神童グザヴィエ・ドラン監督『わたしはロランス』(12)、『たかが世界の終わり』(16)などにも出演している。
ローラ・スメット
Laura SMET
1983年10月15日ヌイイ=シュル=セーヌ生まれ。父は国民的ロックスターのジョニー・アリディ、母はナタリー・バイ。オリヴィエ・アサイヤスの推薦によってグザヴィエ・ジャノリの長編第一作『Les corps impatients(原題)』(04)で主演デビューを果たし、ロミー・シュナイダー賞を受賞、セザール賞有望新人女優賞にもノミネートされた。ブノワ・マジメルと共演したクロード・シャブロル監督『石の微笑』(04)やアガサ・クリスティー小説の映画化『ゼロ時間の謎』(07)、映画界のもう一つのビッグ・ファミ リーであるフィリップ・ガレル監督、ルイ・ガレル主演の『愛の残像』(08)などに出演。4年間の休養を経た2014年、4作品(『イヴ・サンローラ ン』、『96 heure(原題)』、『EDEN/エデン』、『Tiens-toi droite(原題)』)に出演し完全復活を遂げた。翌年にはジャリル・レスペール、ジェラール・ランヴァンと共演した『ブルゴーニュで会いましょう』(15)などがある。本作が母ナタリー・バイとの映画初共演。
イリス・ブリー
Iris BRY
1995年8月8日パリ生まれ。イラストレーター兼編集者の父と美術教師の母との間に生まれる。図書館学の学位を取ったばかりの時、偶然本作のキャスティング・ディレクターのカレン・オトワの目に留まり、 オーディションを経てフランシーヌ役を獲得。女優の経験は皆無ながら、ナタリー・バイやローラ・スメットたちを相手に堂々たる演技を披露、セザール賞とリュミエール賞の有望新人女優賞にノミネートされた。イザベル・ユペールと共演の『La daronne(原題)』(ジャン=ポール・サロメ監督)が待機中。
岩波ホール:11:00-13:20 (135分)