予告編
「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のスタッフ&キャストが再結集し、ジョージ・W・ブッシュ政権でアメリカ史上最も権力を持った副大統領と言われ、9・11後のアメリカをイラク戦争へと導いたとされるディック・チェイニーを描いた社会派エンタテインメントドラマ。1960年代半ば、酒癖の悪い青年だったチェイニーは、後に妻となる恋人リンに叱責されたことをきっかけに政界の道へと進み、型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルドの下で政治の裏表を学んでいく。やがて権力の虜になり、頭角を現すチェイニーは、大統領首席補佐官、国務長官を歴任し、ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領の座に就くが……。これまでも数々の作品で肉体改造を行ってきたクリスチャン・ベールが、今作でも体重を20キロ増力し、髪を剃り、眉毛を脱色するなどしてチェイニーを熱演した。妻リン役に「メッセージ」「アメリカン・ハッスル」のエイミー・アダムス、ラムズフェルド役に「フォックスキャッチャー」「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のスティーブ・カレル、ブッシュ役に「スリー・ビルボード」のサム・ロックウェルとアカデミー賞常連の豪華キャストが共演。第91回アカデミー賞で作品賞ほか8部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した。
STORY
1960年代半ば、酒癖の悪い青年チェイニーがのちに妻となる恋人リンに尻を叩かれ、政界への道を志す。型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルドのもとで政治の表と裏を学んだチェイニーは、次第に魔力的な権力の虜になっていく。大統領首席補佐官、国防長官の職を経て、ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任した彼は、いよいよ入念な準備をもとに“影の大統領”として振る舞い始める。2001年9月11日の同時多発テロ事件ではブッシュを差し置いて危機対応にあたり、あの悪名高きイラク戦争へと国を導いていく。こうしてチェイニーは幽霊のように自らの存在感を消したまま、その後のアメリカと世界の歴史を根こそぎ塗り替えてしまったのだ。
大統領を差し置いてアメリカを操り、世界をメチャクチャにした悪名高き副大統領(バイス)、その名はディック・チェイニー。
まさかの実話&社会派ブラック・エンターテインメント!
よほどの政治マニアでなければ、アメリカの副大統領の言動に関心を抱く人はいないだろう。常に陰に隠れた副大統領は、大統領が死亡したり、辞任した際にその代わりとして昇格するポジションであるため、「大統領の死を待つのが仕事」などと揶揄する者もいる。しかし、もしも副大統領が目立たない地位を逆手にとって、パペットマスターのごとく大統領を操って強大な権力をふるい、すべきでない戦争を他国に仕掛けた揚げ句、アメリカを、そして世界中を変えてしまったら……。本作はそんなまさかの“影の大統領”が本当に存在したことを証明し、現代米国政治史における最も謎に包まれた人物に光をあてた野心作。その主人公の名は第46代副大統領ディック・チェイニーである。
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のチームが再結集
この前例の見当たらないユニークなプロジェクトに挑んだのは、リーマン・ショックの裏側を斬新な視点で描き、アカデミー賞5部門にノミネート(脚色賞を受賞)された『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のアダム・マッケイ監督。この“影の大統領”を綿密にリサーチするうちに、底知れないほど深くてどす黒い人物像に魅了され、いかに彼が密かにホワイトハウスの権力を掌握し、その後の今に至る世界情勢に多大な影響を与えたかを徹底的に追求した。
ちなみに題名の『バイス』には、バイス・プレジデント(副大統領)を指すだけでなく、“悪徳”や“邪悪”という意味もこめられている。
驚異的な役作りで魅せるクリスチャン・ベールと豪華キャストのアンサンブル
本年度アカデミー賞を賑わせたオールスター・キャストの豪華なアンサンブルにも、目を奪われずにいられない。マッケイ監督に「彼に断られていたら、この映画を作ることはなかった」と言わしめた主演俳優はクリスチャン・ベール。ハリウッド屈指の“演技の鬼”として名高い彼が、約20キロにおよぶ体重の増量、一度あたり5時間近くを要する特殊メイクを施して、約半世紀にわたるチェイニーの軌跡を体現した。その体型や髪型、顔つきの信じがたい変化に加え、内面からにじみ出すオーラの迫力には誰もが息をのむだろう。自身のキャリアにおいて本作に特別な思い入れがあるベールは、ゴールデン・グローブ賞男優賞(コメディ/ミュージカル部門)に輝いており、アカデミー賞主演男優賞にも順当にノミネートした。
チェイニーの野望を後押しする妻のリンに扮するのは、『ザ・ファイター』『アメリカン・ハッスル』に続いてベールとの3度目の共演が実現したエイミー・アダムス。本作でアカデミー賞ノミネートが6度目となる名女優が、タフでしたたかなセカンドレディを演じている。チェイニーを取り巻くブッシュ政権の面々の“そっくりさん”ぶりも驚嘆に値する。『マネー・ショート~』『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』のスティーヴ・カレルがラムズフェルド国防長官、『スリー・ビルボード』でオスカー俳優の仲間入りを果たしたサム・ロックウェルがブッシュに扮して曲者ぶりを発揮。ナオミ・ワッツやアルフレッド・モリナの意外な登場シーンも要チェックである。
また、話題作を次々と世に送り出すプランBが全面バックアップした本作には、強力なプロデューサー陣にブラッド・ピット、ウィル・フェレルも名を連ねている。シーンごとに社会派、ブラック・コメディ、家族ドラマ、さらには荘厳な叙事詩やシェイクスピア劇のようにも表情を変える本作は、アカデミー賞でも堂々たる主役のひとりとしてスポットライトを浴びた。
公式サイト:https://longride.jp/vice/
https://ja.wikipedia.org/wiki/バイス_(映画)
監督・脚本・制作:アダム・マッケイADAM McKAY
1968年生まれ。アメリカ出身。コメディ集団「アップライト・シチズン・ブリゲイト」の創設メンバーであり、95年から2001年まで「サタデー・ナイト・ライブ」脚本を務め、それをきっかけに、長らく製作・脚本のパートナーとなるウィル・フェレルと出会った。フェレルとは、マッケイが監督・脚本を担当した『俺たちニュースキャスター』(04・未)、『タラデガ・ナイトオバールの狼』(06・未)、『俺たちステップ・ブラザーズ-義兄弟』(08・未)、『俺たちニュースキャスター史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』(13・未)など様々な映画で仕事をしている。
映画の他にも、ハフィントン・ポストへの寄稿や、TV「マイケル・ムーアの恐るべき真実 アホでマヌケなアメリカ白人」(99)などの企画に関わり、HBO「Eastbound&Down(原題)」(09-13)の製作・監督、またブロードウェイでは、トニー賞ノミネート「You’re Welcome America」の演出も務める。
クリスチャン・ベールとは、アカデミー賞脚色賞はじめ数々の映画賞を受賞した『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15)に続いて2度目のタッグとなる。本作では、作品賞、脚本賞、監督賞はじめ8部門にオスカーノミネート。
https://ja.wikipedia.org/wiki/アダム・マッケイ
https://eiga.com/movie/90070/special/
https://eiga.com/movie/90070/special/2/
TOHOシネマズ日比谷:15:10-17:35 (132分)
VICE: 悪徳・邪悪。
「副」「次」「次席」「代理」の意。
クリスチャン・ベール_町山智浩氏インタビュー映像
エイミー・アダムス_町山智浩氏インタビュー映像
アダム・マッケイ監督_町山智浩氏インタビュー映像
https://toyokeizai.net/articles/-/267722
最強?最凶!チェイニーを知るための8つのキーワード
酒癖によるトラブル
若い頃に酒癖が悪かったチェイニーは、彼が仕えたブッシュ大統領と同じく、飲酒運転による逮捕歴がある。副大統領を務めていた2006年2月11日には、狩猟中に弁護士である友人に誤って発砲。
当時もチェイニーは酩酊中だったと言われ、この事故はすぐさまアメリカのテレビ番組でジョークのネタにされた。
心臓へのテロ対策
若い頃から心臓に持病があり、副大統領在任中までに5回の心臓発作を起こした。TVシリーズ「HOMELAND」のシーズン2には米副大統領がテロリストにペースメイカーを遠隔操作されて殺されるエピソードがあるが、さすがはチェイニー、用意周到に自らのペースメーカーへのハッキング対策を行っていた。
同性愛者の娘との関係
妻リンとの間にふたりの娘をもうけている。本作で彼女たちは愛らしく活発な女の子として描かれているが、次女メアリーが思春期に同性愛者であることをカミングアウト。共和党の有力な支持基盤は同性愛や同性婚に不寛容なため、チェイニーはしばしば党の政策方針と娘への愛情の間で板挟みになった。
趣味はフライフィッシング
本作の劇中には、チェイニーがフライフィッシングを楽しむシーンが繰り返し挿入されている。この“繰り返し”というところがポイントで、魚を釣るために忍耐強く時間を費やすその姿には、虎視眈々と権力の座を狙う彼の政治的な志向を、マッケイ監督が皮肉っぽく重ね合わせているようにも読み取れる。
しわがれ声の囁き魔
チェイニーはしわがれ声でボソボソと話す。ブッシュ大統領に「戦争の決断はあなたが下す」とイラク侵攻の決断を促すシーンのそれは、まさに“悪魔の囁き”のよう。また大衆向けの演説は苦手だったのか、劇中には下院議員選挙への出馬時に退屈な話で聴衆にそっぽを向かれるシーンが盛り込まれている。
石油利権でがっぽり!?
ブッシュ政権は「フセインは大量破壊兵器を持っている」との理由でイラク戦争を行ったが、大量破壊兵器はどこにもなかった。そのためイラクの石油利権を狙った戦争だという批判が絶えない。ちなみに対イラクの強硬派だったチェイニーは、世界有数の石油企業ハリバートンの元CEOで大株主である。
妻は著述家で活動的なセレブ
若き日は“ろくでなし”だったチェイニーを政界で押し上げたのは妻リン・チェイニーだった。文学博士号を持つ著述家であるリンは、全米人文科学基金の会長やテレビの政治討論番組の司会を務めるなど、夫に負けない華やかなキャリアを歩んだ。セカンドレディ時代にはエミネムの歌詞を非難したこともある。
師匠は保守強硬派の大物
チェイニーに政治家のイロハを伝授したドナルド・ラムズフェルドは、彼にとって師にあたる存在。
ところがブッシュ大統領のもとでチェイニーがナンバー2の副大統領を務めた際は、国防長官のラムズフェルドが下位となる立場逆転が起こった。政権内のネオコン(新保守主義者)も操り、単独行動的な外交を展開した。
“ディック”リチャード・ブルース・チェイニー
Richard Bruce “Dick” Cheney
https://ja.wikipedia.org/wiki/ディック・チェイニー
https://en.wikipedia.org/wiki/Dick_Cheney
バートン・ゲルマン(加藤祐子訳)『策謀家チェイニー副大統領が創った「ブッシュのアメリカ」』朝日新聞出版〈朝日選書〉2010年.
https://en.wikipedia.org/wiki/Barton_Gellman
Angler: The Cheney Vice Presidency. Penguin Press.2008.