予告編
「イット・フォローズ」で世界的に注目を集めたデビッド・ロバート・ミッチェル監督が、「ハクソー・リッジ」「沈黙 サイレンス」のアンドリュー・ガーフィールド主演で描いたサスペンススリラー。セレブやアーティストたちが暮らすロサンゼルスの街シルバーレイク。ゲームや都市伝説を愛するオタク青年サムは、隣に住む美女サラに恋をするが、彼女は突然失踪してしまう。サラの行方を捜すうちに、いつしかサムは街の裏側に潜む陰謀に巻き込まれていく。「私たちは誰かに操られているのではないか」という現代人の恐れや好奇心を、幻想的な映像と斬新なアイデアで描き出す。サラ役に「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のライリー・キーオ。
本作は、デヴィッド・ロバート・ミッチェルが監督を務め、2018年6月には演劇界最大の祭典トニー賞で主演男優賞を受賞した演技派・アンドリュー・ガーフィールドが主演するノワール・サスペンス。夢を抱いてL.A.のシルバーレイクへ出てきたはずが、気がつけば仕事もなく、家賃まで滞納しているサム(アンドリュー・ガーフィールド)。向かいに越してきた美女サラ(ライリー・キーオ)にひと目惚れし、何とかデートの約束を取り付けようと試みる。しかしある日、彼女は忽然と消えてしまう。もぬけの殻になった部屋を訪ねたサムは、壁に書かれた奇妙な記号を見つけ、陰謀の匂いをかぎ取る。折しも、大富豪や映画プロデューサーらの失踪や謎の死が続き、真夜中になると犬殺しが出没しており、街を操る謎の裏組織の存在が噂されていた。暗号にサブリミナルメッセージ、都市伝説や陰謀論をこよなく愛するサムは、無敵のオタク知識を総動員して、シルバーレイクの下にうごめく闇へと迫っていく……。
公式サイト:https://gaga.ne.jp/underthesilverlake/
https://ja.wikipedia.org/wiki/アンダー・ザ・シルバーレイク
http://www.uplink.co.jp/movie/2018/51999
https://en.wikipedia.org/wiki/Under_the_Silver_Lake
監督・脚本:デヴィッド・ロバート・ミッチェルDavid Robert Mitchell.
1974年、アメリカ・ミシガン州デトロイト生まれ。現在はロサンゼルス在住。監督・脚本を務めた映画デビュー作『アメリカン・スリープオーバー』(10)はその年のサウス・バイ・サウス・ウエストでプレミア上映され、審査員特別賞を受賞。また、カンヌ国際映画祭国際批評家週間で世界プレミア上映、ドーヴィル・アメリカン映画祭審査員賞、ミュンヘン国際映画祭アメリカ・インディーズ新人賞など数々の賞を受賞。熱狂的に評論家たちに支持され、アメリカのテレビ番組「エバート・プレゼンツ・アット・ザ・ムーヴィーズ」でその年のトップ5に選出される。そして長編2作目のホラー映画『イット・フォローズ』(14)はカンヌ国際映画祭国際批評家週間でプレミア上映され、インディペンデント・スピリット賞4部門ノミネート。映画批評サイトRottenTomatoesでは、驚異の96%という数字をたたきだすなど辛口批評家から絶賛され、全米では急遽拡大公開となり、3週にわたりTOP10にランクイン、世界的大ヒットを収める。
https://ja.wikipedia.org/wiki/デヴィッド・ロバート・ミッチェル
https://ja.wikipedia.org/wiki/イット・フォローズ
アンドリュー・ガーフィールドAndrew Garfield
1983年8月20日アメリカ・ロサンゼルス生まれ、イギリス育ち。アメリカとイギリスの二重国籍を持つ。04年、ロンドン大学セントラル・スクール・オブ・スピーチ・アンド・ドラマ卒業。舞台からキャリアをスタートさせ、『大いなる陰謀』(07)で映画デビュー。『BOY A』(07)で英国アカデミー賞BAFTA賞テレビ部門で主演男優賞受賞。ノーベル文学賞受賞のカズオ・イシグロ原作『わたしを離さないで』(10)、ゴールデン・グローブ賞助演男優賞にノミネートされたデヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』(10)など話題作に続々出演。続いて、主人公を演じた『アメイジング・スパイダーマン』(12)と『アメイジング・スパイダーマン2』(14)が、合計15億ドルの興行収入を上げ、世界中にその名を知られる。さらに、戦争ドラマ『ハクソー・リッジ』(16)ではアカデミー賞主演男優賞ノミネートを果たす。その他の出演作は『沈黙-サイレンス-』(16)、『ブレスしあわせの呼吸』(17)など。18年6月には「エンジェルス・イン・アメリカ」で演劇界最大の祭典トニー賞で主演男優賞を受賞。役によって変貌する確かな演技力で世界中の観客を魅了している。
https://ja.wikipedia.org/wiki/アンドリュー・ガーフィールド
横浜ブルク13: 13:30-16:00 (140分)
【ネタバレあり】『アンダー・ザ・シルバーレイク』町山智浩氏によるスペシャルトークショー@新宿バルト9
http://report.cinematopics.com/archives/42138
町山智浩
シルバーレイク、銀の湖。それはロサンジェルスの東北部、ハリウッドの東にある貯水池の名前で、その周辺の住宅地もそう呼ばれる。1910年代から30年代にかけて、そこにはキーストンという映画会社があり、サイレントの喜劇映画を量産していた。
その後は、ハリウッドに近いうえに家賃が安いため、映画や音楽で成功を目指す青年や芸術家たちが集まった。たとえば70年代には、まだ貧乏だったジョエル&イーサン・コーエン兄弟と、後にジョエルと結婚するフランシス・マクドーマンド、それにキャシー・ベイツが家をシェアして暮らしていた。
筆者は2000年代前半、ロサンジェルスに行くと、シルバーレイクに住む瑪瑙ルンナさんという友人の家によく泊めてもらった。ルンナさんはスタイリストで服飾アーティスト。さらに「セックス・ロバ」というインディーズのバンドでボーカルもしていた。
ルンナさんの夫トッシュ・バーマンさんはサンセットストリップの書店「ブックスープ」のマネージャーだった。ジョニー・デップが経営していたライブ・ハウス「ヴァイパー・ルーム」の並びにあり、映画人がよく訪れる。TVドラマ『LAW and ORDER 性犯罪特捜班』の主演スター、マリスカ・ハージティも、駆け出しの頃、「ブックスープ」でバイトしていた。
書店に限らず、ロサンジェルスでは、レストランでもカフェでも洋服屋でも、店員の多くが俳優の卵で、オーディションを受けまくっている。夢工場ハリウッドの一員になる夢を見て、世界中から集まってきた夢追い人たち。そんな彼らが肩寄せ合って暮らす街がシルバーレイクだった。
だが、2000年代半ばからシルバーレイクは変わった。オシャレな街として人気が出て、ジェームズ・フランコやジョセフ・ゴードン・レヴィットなどのセレブも住人になり、家賃が高騰し、かつてのような貧乏な若者たちは住めなくなっていった。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』の監督、デヴィッド・ロバート・ミッチェルは10年ほど前からロサンジェルスに住み、シルバーレイクの変容を見てきたという。
ミッチェル監督(1974年生まれ)はホラー映画『イット・フォローズ』(16年)で世界的に注目された。製作費わずか200万ドルの低予算で、全米で1400万ドル以上を稼ぎ出したサプライズ・ヒットだった。セックスを体験した若者をイット(それ)と呼ばれる幽霊のようなものが追い続ける。監督によれば、イットとは、老いること、死ぬことの恐怖の象徴だという。それを遠ざけるには、愛する人を見つけるしかない。
ホラー映画らしくない、哲学的でロマンチックなテーマ、マイク・ニコルズの『卒業』(67年)やドストエフスキーの「白痴」の引用、そして美しい撮影。『イット・フォローズ』は作品として高く評価された。
そのミッチェル監督の新作が『アンダー・ザ・シルバーレイク』。今回はハリウッドを舞台にしたミステリーだが、ミッチェルらしく、全編にポップ・カルチャーへの愛と憎しみが満ち溢れた奇妙な映画だ。
主人公サム(アンドリュー・ガーフィールド)はシルバーレイクのアパートに住む三十代。映画か音楽か、何かに夢を抱いてこの街に来たらしいが、夢には届かなかったらしい。仕事もなく、家賃を滞納してアパートを追い出される寸前だ。
サムは往年のハリウッド映画ファンだ。アパートの居間にはヒッチコックの『裏窓』や『サイコ』、『大アマゾンの半魚人』のポスターが飾られている。寝室にはギブソンのレスポール・ギターとアンプ、ニルヴァーナのカート・コバーンのポスターがあるのを見ると、ロック・ファンでもある。
サムが双眼鏡でアパートの中庭を覗く。『裏窓』(54年)のジェームズ・スチュワートのように。そして謎の美女サラと出会い、彼女の部屋でマリリン・モンロー主演の『百万長者と結婚する方法』(53年)を観る。翌朝、サラは消えていた。サムはサラが忘れられない。ヒッチコックの『めまい』(58年)でキム・ノヴァクに魅せられたジェームズ・スチュワートのように。不穏で甘いオーケストラも、『めまい』のバーナード・ハーマンの音楽そのものだ。
サラを探してサムはハリウッドを駆け巡る。あちこちのパーティに潜り込み、奇妙なハリウッド人種たちと次々に出会う。ロバート・アルトマン監督の『ロング・グッドバイ』(73年)のフィリップ・マーロウのように。
サムは、墓地で行われた試写会に行く。映画人の墓が多い「ハリウッド・フォーエヴァー霊園」だ。ヒッチコックの墓石もあるが、遺灰は海に撒かれたので、その下には何もない。
霊園の地下にはクラブがあって、テーブルは墓石。サムのテーブルはピンクのハート型。それは女優ジェーン・マンスフィールドの墓石。マンスフィールドはマリリン・モンロー人気にあやかって登場したグラマー女優で、マリスカ・ハージティの御母堂。1967年に交通事故で亡くなった。34歳だった。サムはそこで、女優ジャネット・ゲイナーの墓石も見る。彼の母が好きな映画『第七天国』(27年)の主演女優。彼女も交通事故死した。
サムは華やかな映画界の裏から漂う死の匂いに引き寄せられていく。サムの夢の中で、サラがプールで全裸で泳ぐ姿は、マリリン・モンローの遺作『女房は生きていた』(62年)を模倣している。事故で死んだと思われたヒロインが実は生きていたというコメディだが、完成しなかった。モンローが謎の死を遂げたから。
サムはサラを探すうちに、音楽や映画には秘密のメッセージが隠されているという陰謀論にのめりこんでいく。その心理は、トファー・グレイス扮する友人が語るパラノイアそのものだ。ハリウッドにやってきても、成功できる人はほんの一握り。夢の王国に入る扉は、それを開ける鍵はどこにある?それは「ゼルダの伝説」のように、この街のどこかに隠されているんじゃないか?
『アンダー・ザ・シルバーレイク』は『ラ・ラ・ランド』(16年)の裏返しのような映画だ。どちらもグリフィス天文台でロケしている。あちらは天にも昇るラブ・シーン、こちらは地下深くのトンネルに下りていく。『ラ・ラ・ランド』で女優を目指すヒロインはオーディションで「狂気こそが鍵なの」と歌う。ハリウッドの扉を開ける鍵は、夢見る狂気なのだと。
サムが「作曲者」の家に近づくシーンは夢のようだ。まるで『オズの魔法使い』(39年)のエメラルドシティ。オズの魔法使いが魔法の正体をバラしてしまったように、「作曲家」も、サムが信じてきた映画やロックの魔法を解いてしまう。
テレビ画面に『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(56年)のクライマックスが映っている。主人公は道路の真ん中で、いつの間にか異星からの侵略者に人々が乗っ取られているんだと訴えるが、周囲からは狂人としか思われない。サムが何を言っても信じてもらえないだろう。
シルバーレイクの底には、ハリウッドで砕けた夢の残骸が沈んでいるのだ。
第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品
カンヌの評価がよくなかったので、再編集のため、全米公開日を2018年12月7日に延期した。
シルバーレイク(Silver Lake)
https://www.airbnb.jp/locations/los-angeles/silver-lake
https://en.wikipedia.org/wiki/Silver_Lake,_Los_Angeles
都市のダメ男の妄想世界を知りたければ。