Nanook Of The North 01
「ドキュメンタリー映画の父」と呼ばれるロバート・フラハティが1922年に手がけた、記録映画の原点とも言える一作。白い雪と氷に閉ざされたカナダ北部の極地に暮らす、主人公ナヌークを長とするイヌイットの一家が、厳しい自然と闘いながら、たくましく生きる姿を映し出した。日本では1924年に「極北の怪異」のタイトルで公開された。2018年9月、フラハティ監督のもうひとつの傑作「モアナ 南海の歓喜」のデジタルリマスター版公開にあわせ、本作のデジタルリマスター版も公開される。
岩波ホール:15:20-16:45 (78分)
Amazonレビュー
『極北の怪異(極北のナヌーク)』において脚本・監督・製作・撮影・編集を手がけたロバート・J・フラハティは、“ドキュメンタリー映画の父”としていつまでも人々の記憶に残る人物だ。ハドソン湾の北東岸を舞台に撮影された大傑作『極北の怪異(極北のナヌーク)』は1922年の映画だが、現代の定義からすれば純粋なドキュメンタリーではなく、むしろ世界初のノンフィクションの傑作というべきである。フラハティはナヌーク一家と友人たちの協力を得て、いくつものシーンを「演出」し、すでに廃れてしまったイヌイット文化をよみがえらせようとしたのだ。好奇心旺盛なフラハティのカメラに収められたナヌークは、氷に穴を開けて魚を捕り、銛でセイウチを狩り、アザラシを捕らえ、わなを仕掛け、イグルーを作り、交易所で毛皮を売る。文明に毒される寸前の原始的な暮らしを営む「幸せな」文化の代表者、という役柄だ(現実のナヌーク一家の生活は、きわめて西洋的なものだった)。それでもなおナヌークは、ひたすら謙虚で愛すべき人物として描かれている。 結局フラハティが作品で訴えているのは、このように過酷な環境で生き残るだけでなく子孫を増やすことも学んだイヌイット文化への、おおいなる尊敬と畏怖の気持ちであった。映像の観点だけからいえば、この作品は実に美しい。雪と氷に閉ざされた純白の厳しい大地で繰り広げられる、飾りのないドラマなのだ。フラハティの狙いすました明快さと率直な語り口によって、はるか昔に失われた文化の特徴とリズムは復活し、世の人々の記憶に焼きつけられている。キノ社の協力によりデイヴィッド・シェパードが修復作業をおこなった本作品は、かつてビデオでしか見られなかったフィルムよりもくっきりと明るいものとなり、長年のあいだに損傷が進んだ映像も復元された。シェパードから新しいサウンド・トラックを依頼されたティモシー・ブロックは、オリジナルの音楽要素に手を加え、見事にふくらませている。作品の終わりには、フラハティ監督の未亡人への短いインタビューがある。(Sean Axmaker, Amazon.com)