予告編
ミハエルとダフナ夫妻のもとに、息子ヨナタンの戦死を軍の役人が知らせにやって来る。悲しみに打ちひしがれるふたり。そんな中、その報が誤りだったと分かる。安堵するダフナ。しかし、ミハエルは怒りをぶちまけ、息子を呼び戻すよう役人に要求する。前哨基地の検問所。ヨナタンは戦場でありながらどこか間延びした時間を過ごしている。ある日、若者たちが乗った車がやって来る。いつもの簡単な取り調べのはずが・・・。
愛する息子を連れ戻そうとする父、息子が生きていた事を喜ぶ母、戦場で悲しい体験をする息子。残酷な誤報が彼らの運命を翻弄してゆく。浮かび上がるそれぞれの愛、思い、優しさ、そして露わになるそれぞれの傷、罪、弱さ――。過去の、現在の行いの報いなのか?彼らは、運命の渦に容赦なくのみ込まれてゆく。そして、その先にあるものは――深く大きな悲しみ、そしてかすかな愛の光。
父、母、息子――遠く離れたふたつの場所で、3人の運命は交錯し、そしてすれ違う。まるでフォックストロットのステップのように。
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/foxtrot/
https://ja.wikipedia.org/wiki/運命は踊る
http://www.sonyclassics.com/foxtrot/
監督・脚本:サミュエル・マオスSAMUEL MAOZ
1962年5月23日イスラエル、テルアビブ生まれ。幼い頃から映画に関心を持ち、13歳の頃8ミリカメラとフィルム一巻を買ってもらう。西部劇で見た決闘場面を再現しようとして、近づいてくる列車の線路上にカメラを設置し、粉々にさせた。18歳の頃には、何十本もの自主映画を撮るようになる。
その後、イスラエル軍の戦車部隊に配属され砲手として訓練を受ける。1982年6月、イスラエルはレバノンに侵攻。20歳になったばかりのマオズは、勃発したレバノン戦争に砲手として従軍し、壮絶な戦争体験をする。その後、撤退にともない帰国。ベイト・ツヴィ演劇学校でかねてより関心を持っていた映画を学び、1987年に卒業する。翌年、自身の戦争体験を基にした脚本の執筆を試みるも、当時の生々しい記憶や匂いまでもが甦り書き進めることができず一時中断。カメラマンやプロダクションデザイナーとして映像作品に携わり経験を重ねる。そして、構想から約20年を経た2009年、レバノンでの戦争体験を基にした長編映画デビュー作『レバノン』を発表。戦車のスコープを通して映し出される緊迫感とリアリティに溢れた映像は各国の映画祭で絶賛され、第66回ヴェネチア国際映画祭でグランプリ(金獅子賞)受賞、第23回ヨーロッパ映画賞ディスカバリー賞(初監督作品賞)など数々の賞を受賞する。監督・脚本を手掛けた8年ぶり2作目の長編『運命は踊る』(17)では、第74回ヴェネチア国際映画祭で審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞、第23回アテネ国際映画祭監督賞受賞のほか、第31回オフィール賞(イスラエル・アカデミー賞)作品賞、監督賞、主演男優賞を含む最多8部門受賞、第90回アカデミー賞®外国語映画賞イスラエル代表に選ばれるなど国内外で高い評価を得ている。
「レバノン」(2009)第66回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/レバノン_(映画)
[インタビュー]
『運命は踊る』はギリシャ悲劇としても見ることができます。三部構成であるということだけでなく、信仰、自由意志、人間の思い上がりといった比喩的表現をギリシャ悲劇から借り受けているように思います。このアイデアはどこから生まれたのでしょう。
ギリシャ悲劇の三部構成は、私のアイデアを伝えるのに最適な形式だと思えました。ミハエルは自ら罰を引き寄せ、自分を救おうとする者たちと敵対します。彼は、自分の行動がもたらす結果にまったく気づいていないのです。それどころか、彼は正しく、また当然と思える行動をとる。単なる偶然と、運命の仕業に見える偶然との違いがそこにあります。一見混沌に見えるものは、すべて定められたものなのです。罰は極めて正確に罪に見合っている。因果応報、なるべくしてなる。そして、そこには運命につきものの皮肉も感じられます。ミハエルは、息子を救えるという思い上がりゆえに、罰せられるのです。
同時に、三部構成にしたことで、観客に感情の旅を提供することができました。第一部でショックを与え、第二部で幻惑させ、第三部で感動を与える。それぞれの場面は、映画的な技法を駆使することで、その中心を担う登場人物の性格を反映したものになっています。ミハエルを中心とする第一部は、彼自身のように鋭く、冷たく、簡潔です。突き放した構図からなっています。第三部は母親、ダフナにより密接に結びついている。青みを用い、柔らかく、温かみがある。真ん中のヨナタンのシークエンスは、夢に捕われた芸術家の内面世界のように、地面から数センチ浮き上がっています。映画全体が哲学的パズルなのです。
ヴェネチア国際映画祭審査員グランプリ
https://eiga.com/movie/88446/critic/
https://www.sankei.com/premium/news/180929/prm1809290003-n1.html
J&B: 13:55-15:50 (113分)
フォックストロット
『運命は踊る』の原題でもあるフォックストロットは、1910年代はじめにアメリカで流行した、4分の4拍子、2分の2拍子の社交ダンス。作品の中で度々語られるフォックストロットのステップ。「前へ、前へ、右へ、ストップ。後ろ、後ろ、左へ、ストップ」――元の場所に戻って来る。どうあがいても、いくら動いても同じところへと帰って来る。動き出した運命は変えることができないということか…。
映画が描く「中東」の姿が、変わりつつある。その最先端に立つ映画。