予告編
想田和弘がアメリカで観察映画を撮った。しかも舞台は、全米最大のアメリカンフットボール・スタジアム、通称“ザ・ビッグハウス”。パブリック・アイビーと称される名門ミシンガン大学が誇るウルヴァリンズの本拠地だ。収容人数は10万人以上、地元アナーバー市の総人口に迫る。
想田を含めて17人の映画作家たちが廻すキャメラが捉えたダイナミックなプレイ、熱狂する観衆、バックヤードで国民的スポーツを支える実に様々な人々…。それらの映像群が、想田の大胆かつ緻密なモンタージュによって、まるで巨大な生命体のように機能するスタジアムの全貌を描き出していく。
ミシンガン大学のアメリカンフットボールチーム「ウルヴァリンズ」の本拠地ミシガン・スタジアム。このスタジアムは10万人以上の収容人数を誇り、「ザ・ビッグハウス」と称されている。
公式サイト:http://thebighouse-movie.com
http://www.imageforum.co.jp/theatre/movies/1519/
監督・製作・編集:想田和弘(そうだ・かずひろ)
1970年栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒。93年からニューヨーク在住。映画作家。台本やナレーション、BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。
監督作品に『選挙』(07)、『精神』(08)、『Peace』(10)、『演劇1』(12)、『演劇2』(12)、『選挙2』(13)、『牡蠣工場』(15)、『港町』(18)があり、国際映画祭などでの受賞多数。著書に「精神病とモザイク」(中央法規出版)、「なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか」(講談社現代新書)、「演劇VS映画」(岩波書店)、「日本人は民主主義を捨てたがっているのか?」(岩波ブックレット)、「熱狂なきファシズム」(河出書房新社)、「カメラを持て、町へ出よう」(集英社インターナショナル)、「観察する男」(ミシマ社)など。本作『ザ・ビッグハウス』制作の舞台裏を記録した単行本「THE BIG HOUSE アメリカを撮る」(岩波書店)が2018年5月30日に刊行。
監督より
アメリカン・フットボールのルールすら知らなかった僕がこんな映画を作ることになるとは、人生、不思議なものである。
ことの発端は、小川紳介の研究などで知られる学者マーク・ノーネスによる、確信犯的な奇襲攻撃である。まずは僕を彼が所属するミシガン大学に一年間招聘教授として呼び、さらに「せっかくミシガン大に来るなら、映画作家のテリー・サリスや学生たちと一緒にミシガン・スタジアムについての観察映画を撮らないか」と誘ってきた。
二段階攻撃である。
観察映画を大勢の人たちと、しかもアメリカで撮る?その上、被写体は10万人を収容できるというアメリカ最大のスタジアム?
どうなるかわからぬ冒険だが、そそられる話だ。僕は思わずクラっとなり、この風変わりなプロジェクトへの参加を決めた。大のアメフトファンであるマークは、長い間こういう機会を狙っていたらしい。要は彼の術中にはまったということだ。
これまで僕は「観察映画の十戒」を掲げて、「観察」をキーワードにドキュメンタリーを作り続けてきた。事前のリサーチやテーマ設定、台本作りをせず、目の前の現実をよく観てよく聴きながら、行き当たりばったりでカメラを回す。結論先にありきの予定調和を排除するための方法論である。
映画「ザ・ビッグハウス」の制作では、制作の経緯や体制から「十戒」のすべては守れぬものの、そのコアな精神や理念は実践できたと思う。
僕を含む17人の映画作家(そのうち13人は学生)が、テーマ設定をせずにカメラを持ってビッグハウスへ出かけていく。そして興味を持った人々や場面をそれぞれが撮っては、編集する。編集された場面をみんなで観ては批評し、いろんな気づきや発見を得て、また撮影にいく。その繰り返しだ。
そんな風にてんでんばらばらに撮ったものが、一本の映画になりうるものだろうか?
そう僕自身も心配したが、これがなるんですね、不思議と。
集まった無数の場面を、僕が編集者として一本につなげて、映画は完成した。その結果、17人の視点が同居したコラージュかキュービズムのごとき、ビッグハウスの「画」ができたと思う。
それはそのまま、「アメリカ」の画だともいえる。なぜならビッグハウスには、人種や階級、格差、宗教、ナショナリズム、ミリタリズム、消費社会など、アメリカ的な問題が詰まっている。大学アメフトが巨大ビジネスとなり、州からの助成金を減らされた“州立大学”の経済を支えていることも見えてくる。つまりアメリカ社会の縮図がビッグハウスにあることを、僕らはこの映画を作ることで発見したのである。
なお、撮影は奇しくも2016年の秋、ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンの大統領選挙の最中に行われた。普段は民主党が強いミシガン州だが、今回はトランプが制して大統領になったことは周知の通りである。実際、映画に目を凝らしてみると、忍び寄るトランピズムの影がうっすらと、しかし明確に刻印されている。
イメージフォーラム:13:30-15:29 (119分)
【ダイジェスト】想田和弘氏:観察映画に描かれた日本とアメリカの今とこれから
http://thebighouse-movie.com/machiyama.html
町山智浩
https://mainichi.jp/articles/20180614/ddl/k27/200/357000c
https://i-d.vice.com/jp/article/gyk8gw/the-big-house-kazuhiro-soda-interview
ミシガン大学
1人の米大統領と8人のノーベル賞受賞者を輩出しているミシガン大学は1817年創立の名門州立大学。2018年の世界大学ランキング21位(東京大学は46位)。ミシガン・スタジアムの収容人数は全米最大の107,601人(世界2位。1位は北朝鮮の綾羅島メーデー・スタジアム)。ウルヴァリンズの試合は2014年シーズンまでに258回連続で10万人以上の動員を記録し、そのチケット収入、放映権料、グッズ・ライセンス料などの総額売上は年間170億円以上を見込む(日本プロ野球球団の平均売上は約125億円)。現在チームを率いるジム・ハーボー監督の年俸は約9.9億円