予告編
オリンパス株式会社の損失隠ぺい事件の闇に迫るドキュメンタリー。世界に誇る日本の大企業が、10年以上にわたり巨額の損失を隠し続けてきた事実に鋭く切り込む。
公式サイト:https://samurai2018.com
監督・編集・プロデューサー/山本兵衛
1973年11月7日生まれ。米マサチューセッツ州の高校を卒業後、ニューヨーク大学Tisch School of the Artsにて映画製作を学ぶ。監督、脚本、プロデュースした卒業作品『A Glance Apart』がニューヨークエキスポ短編映画祭にて最優秀フィクション賞を受賞。またフランスの国営チャンネルArte、日本ではシネフィルイマジカにて放映。短編作品が、ロッテルダム国際映画祭やトライベッカ映画祭などで上映され、短編4作目『わたしが沈黙するとき』は、パリシネマ、サンパウロ国際短編映画祭などはじめ、15以上の世界の映画祭にて上映されている。2011年に制作会社ヴェスヴィアスを設立。
イメージ・フォーラム:17:00-18:30 (79分)
https://samurai2018.com/解説%EF%BC%8F物語/
マイケル・ウッドフォード
元オリンパス社長/CEO 著者「解任」
1960年6月12日生まれ。イングランド出身。オリンパス
勤務歴30年。2011年4月に本社社長に就任したが6ヶ月後に突如解任される。その後、内部告発者としてオリンパスが長年に渡って関与した不正を摘発した。
山口義正
ジャーナリスト 著書「サムライと愚か者 〜暗闘オリンパス事件」
1967年生まれ。オリンパスの過去のM&Aに不審な点があることに気付き、事件の発端となった記事を独自の調査に基づいて執筆した。
阿部重夫
月刊FACTA 編集長
1948年生まれ。業界雑誌の月刊FACTAの編集長を務める。メジャー紙がオリンパス暴露記事の掲載を見送る中、山口記者の記事を掲載。その後、ウッドフォード解任まで3回に渡り暴露記事を発表し続ける。
ジョナサン・ソーブル
英フィナンシャルタイムズ紙 東京駐在記者(現ニューヨークタイムズ紙)
1973年生まれ。社長就任時にウッドフォードに取材インタビューをしていたが、6ヶ月後に連絡があり、不正疑惑を明確に証拠として残した文書をウッドフォードから託される。
和空ミラー
ウッドフォード代理/通訳
1954年生まれ。ウッドフォードの長年の友人で、解任劇の後、通訳として友人を助け奔走する。修行僧でもある。
■山本兵衛(映画『サムライと愚か者-オリンパス事件の全貌-』監督)
複雑な時代になってきた。グローバル社会において、多種多様の価値観だけでなく、様々な階層、人種、イデオロギーが常に歯ぎしりしながらぶつかり合ってきた。それが情報の加速化によりますます表面化し、誰もが何らかの決断や判断を常に迫られる時代になった。日本社会としてだけでなく、現代社会に生きる人間として、これからどう対応していくべきなのか? 2011年10月に表面化したオリンパス事件は、まさにこういったテーマが隠された事件であり、そういった疑問を投げかけることができると思ったのが、この題材に興味を持ったきっかけだった。
このテーマを象徴するのがウッドフォード氏の言葉から引用している『サムライと愚か者』というタイトルである。ウッドフォード氏の言葉から引用しているが、この発言については、山口義正記者著の『サムライと愚か者—暗闘オリンパス事件』に詳しい。誇り高く名誉をかけて戦う<サムライ>がいる日本なのに、どうしてここまで臆病で卑怯な<愚か者>が共存できるのかという質問を、ウッドフォード氏が山口記者に聞いたそうだ。劇中にもあるように、ウッドフォード氏は、困難な状況にも関わらず自分を支持してくれた様々な人物をさして<サムライ>と呼び、ウッドフォード氏を解任した「弱気で主張がなく卑怯」な役員達を<愚か者>と定義した。
しかし作品を制作していく過程の中で、自分の中では違った定義が形成されていった。事実を犠牲にしてまでも忠実に会社に尽くした役員達。違法であると薄々知りながら会社のために不正会計処理を実行した社員達。そして三代に渡って秘密を抱え続けながら、なんとか解消しようとあらゆる手を尽くした元社長達。彼らが会社を護るために忠実に尽くした<サムライ>であることには間違いなかった。上場企業であるにも関わらず君主制度が敷かれている組織。その中で育まれた盲目的な忠誠心。それは次第に、彼らの倫理観、モラル、良心を蝕んでいった。しかし組織に属する限り、彼らは護られ続けた。だからこそ20年以上に渡り不正を隠蔽し続けることが可能だった。
それではウッドフォード氏が<サムライ>と呼んだ、会社のために正しいことをしようとして立ち上がった人物達はどうだろう? 不正を目の当たりにして告発記事を執筆した山口記者や情報を提供した内部告発者達はどうだろう? 劇中に登場する当事者達は、正しいことをやり通そうと行動をとったにも関わらず、結局何も変えることが出来なかったことに対する虚無感を語っている。不正に関与した人物が一部は刑罰という形で制裁されたが、君主制度体質の変革までには至らず、正しいことをしようとした形跡は跡形もなく忘れ去られた。組織に忠実に尽くす多数派にとって、巻かれるべきものに巻かれず、無駄な主張をして結果を生み出せなかった少数派は<愚か者>と見なされたに違いない。しかし倫理観、モラル、良心に従ってとった行動が、評価されずに終わってしまうのが現代社会だとすれば、それほど恐ろしいことはない。
そして今回の事件で中心的な人物の一人であったウッドフォード氏自身も<サムライ>であり<愚か者>であるという見方もできる。猪突猛進タイプの人物であるウッドフォード氏には、自身がとった行動には絶対的な確信と信念がある。空気を読まずに信念を貫き通し、日本の企業体質に一石を投じたことは確かで、自身が語る<サムライ>の定義に彼自身があてはまる。しかし排他的で全体主義的な考え方が浸透している日本社会にとっては、不可解な価値観を押し付けようとする脅威だったという見方もできる。自分の意見を主張し続けて、空気を読もうとしないウッドフォード氏は<愚か者>として見なされ、解任という形で征伐されてしまった。
このご時世、<個人として筋を通した>だけではまったく通用しない社会になりつつある。そこまで価値観が多様化してきているのが、我々が生きている<今>である。不可解な価値観を押し付けようとする脅威に対して、どれだけ寛大な態度で臨むことができるのか? 個人として社会としてどう向き合って行けばいいのか? それは今後のグローバル社会において最も重要なテーマの一つである。
■阿部重夫/FACTA主筆
禍根は残った。FACTAがスクープして6年半、オリンパスの「ココロとカラダ」は今も病んでいる。サムライが去り、愚か者の「戦犯」はしがみついたままだ。臭いものにフタ、根絶できない日本企業は泥沼にはまる。
■山口義正/ジャーナリスト
この事件によって海外では「一人ひとりは優しくて優秀だが、集団になると腐敗して暴走を始める」という日本人観ができあがったという。7年前、私が丸裸にしたのはオリンパスではなく、日本人と日本社会だった。オリンパスは日本社会そのものだったのだ。
■和空ミラー/修行僧、執筆・翻訳業
残念です。「オリンパス事件」を経た今なお自浄能力がない会社です。この映画の焦点となる不正に直接関わった幹部のうち数名が現役で重要ポストに居座っています。また、昨今報道されている賄賂疑惑やパワハラ訴訟をみるかぎり、「三つ子の魂百まで」。
山口義正『サムライと愚か者暗闘オリンパス事件』講談社、2012