予告編
建築界のバイブルとして読み継がれる「アメリカ大都市の死と生」の著者ジェイン・ジェイコブズに迫ったドキュメンタリー。1950年代のアメリカ。モダニズムを背景に自動車中心に合理的な都市計画(「マスタービルダー」の異名を持つ都市開発の帝王ロバート・モーゼスら)が主流を占めていた。そんな中、1961年に刊行された「アメリカ大都市の死と生」はこれまでとはまったく異なる新しい都市論を展開し、世界に大きなインパクトを与えた。今や都市論のバイブルとなっているこの本を書いたのは、ニューヨークのダウンタウンに住む主婦ジェイン・ジェイコブズ。
公式サイト:http://janejacobs-movie.com
マット・ティルナー(監督、プロデューサー) Matt Tyrnauer(Director-Producer)
ロサンゼルス生まれ。ウェズリアン大学に進学した彼は、アメリカンフィルムスカラーシップのパイオニアであるジョセフW・リード教授の実習生になる。ティルナーは教授のもとで、アメリカ映画の巨匠であるジョン・フォード、ハワード・ホークス、マイケル・クルーゾー、ロバート・アルドリッジなどの研究を手伝った。また卒論でロバート・アルドリッチに関する評論を発表した。2008 年、長編デビュー作であるドキュメンタリー『帝王ヴァレンチノ最後のランウェイ』が、ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映された。この作品は、トロント国際映画祭で北米デビューを果たし、シカゴ映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。2010 年最も興行収入をあげたドキュメンタリーの一つとなり、米国アカデミー賞にノミネートされた。ティルナー監督は定評のあるジャーナリストでもあり、「Vanity Fair」誌の総合監修や特別特派員を務め、現在は寄稿編集者である。彼の幅色いトピックスの記事は「ニューヨーク・タイムズ」「Architectural Digest」「L Uomo Vogue」「GQ, Monocle」「Numero」など様々な種類の新聞や雑誌に寄せられている。
監督の言葉
1950 年代、ワシントンスクエア公園の真ん中を通る4車線の高速道路を走らせたいディベロッパーやニューヨーク市と州の公共事業を取り仕切っていたロバート・モーゼスたちによる都市計画に対して、ジェイコブズをはじめとするグリニッジ・ビレッジの住民と活動家たちは、正式な異議申し立てを行った。彼女たちは近隣住民たちとコミュニティを形成し、市を相手取り道路建設への反対運動を展開した。反対運動の輪は次第に広がり、あらゆるレベルの市庁職員に手紙を書くキャンペーンなどを通して、ジェイコブズと仲間たちはついに勝利を手にし、モーゼスの公園を破壊する計画は流れた。
今日、これとよく似た闘いがある。それは、バーニー・サンダース氏の選挙キャンペーンであり、一般市民を顧みない権力者のトップダウンのやり方に飽き飽きした人々による草の根運動だ。 僕は本作で、都市に対する市民の権利の主張、そして今から半世紀以上も前に繰り広げられたワシントンスクエア公園に関するジェイコブズたちの闘いについて描いた。
現代のビッグバンクの役割や1パーセント程度の富豪による政治的影響への抵抗と同じように、ジェイコブズとグリニッジ・ビレッジの住民団体メンバーは、一般市民が、表面上は市民に仕えているように見せながら実は個人に忍耐を強いる権力構造に対して闘ったのだ。 彼女は彼女が生きた時代において唯一無二であり、現代の見苦しい政治的な陰謀を暴くために信頼に足る人物だと思う。
ユーロスペース:13:00-14:47 (92分)
ジェイン・ジェイコブズの街を元気にする4大原則
★街路は狭く曲がっていて、各ブロックが小さいこと。
★再開発しても古い建物できるだけ残すこと。
★各ブロックには少なくとも2つ以上の働きを持たせる。
★各地区の人口密度が十分高いこと。
- 地区,そして,地区内部の可能な限り多くの場所において,主要な用途が2つ以上,望ましくは3つ以上存在しなければならない。そして,人々が異なる時間帯に外に出たり,異なる目的である場所にとどまったりすると同時に,人々が多くの施設を共通に利用できることを保証していなければならない。
- 街区のほとんどが,短くなければならない。つまり,街路が頻繁に利用され,角を曲がる機会が頻繁に生じていなければならない。
- 地区は,年代や状態の異なる様々な建物が混ざり合っていなければならない。古い建物が適切な割合で存在することで,建物がもたらす経済的な収益が多様でなければならない。この混ざり合いは,非常にきめ細かくなされていなければならない。
- 目的がなんであるにせよ,人々が十分に高密度に集積していなければならない。これには,居住のために人々が高密度に集積していることも含まれる。(中略)
ジェイコブズについて
1916年―2006年。アメリカ、ペンシルベニア州スクラントン生まれ。都市活動家、都市研究家、作家。
1933年、高校を卒業。地元の商業学校で速記を学んだ後、就職する。最初に就いた仕事は、貿易雑誌の秘書で、やがて編集者となる。ヘラルド・トリビューン日曜版にも多くの記事を書く。
1944年、建築家ロバート・ハイド・ジェイコブズと結婚。二人の息子を授かる。
1952年から10年間「_アーキテクチュラル・フォーラム」_誌の編集メンバーになる。「フォーチュン」_誌に掲載された「ダウンタウンは人々のものである」で注目されて、1961年に「アメリカ大都市の死と生」を執筆。
1969年、カナダのトロントに移住。スパディナ高速道路(Spadina Expressway)の建設に反対した。
1997年、トロントが「Jane Jacobs: Ideas That Matter」会議を開催。これはジェイコブズの著書のタイトルから取ったもので、会議の最後に、トロントの活気ある街づくりに貢献した人に贈られるジェイン・ジェイコブズ賞が創設された。
2006年トロントにて他界。
邦訳された主な著書に「アメリカ大都市の死と生」(鹿島出版会)、「都市の原理」(SD選書)、「発展する地域 衰退する地域ー地域が自立するための経済学」(ちくま学芸文庫)、「市場の倫理 都市の倫理」(ちくま学芸文庫)、「経済の本質ー自然から学ぶ」(日経ビジネス人文庫)、「壊れゆくアメリカ」(日経BP社)など。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ジェイン・ジェイコブズ
The death and life of great American cities, Vintage Books, 1961.
『アメリカ大都市の死と生』山形浩生訳(全訳、鹿島出版会、2010)
アンソニー・フリント 『ジェイコブズ対モーゼス ニューヨーク都市計画をめぐる闘い』 渡邉泰彦訳、鹿島出版会、2011年