2「幸せの経済学」
「幸せの経済学」は、どのような映画なのか。この映画の「あらすじ」は以下のように描写されている。
30年前まで外国人立ち入り禁止地域だったヒマラヤの辺境ラダック(チベット文化圏)にも押し寄せた近代化の波は、彼らの生活を一変させた。急速に世界に広がった西欧の消費文化は、彼らと自然との関わりを切り離し、人との繋がりを希薄化させることで、彼らの「伝統的生活様式」を一変させ、彼らの「アイデンティティーや伝統文化の誇り」までも奪っていった。それまでいきいきと目を輝かせて暮らしていたラダックの人々が10年後には、「欧米文化に比べて自分たちは何も持っていない、貧しいのだ。支援が必要だ」と訴えるようになった。この映画では消費文化に翻弄されるラダックの人々の姿を通して、グローバリゼーションの負の側面を指摘し、本当の豊かさとは何かについて説いていく。この映画の監督ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ(3)は、その解決の糸口として、「グローバリゼーション」の対極にある「ローカリゼーション」を提案する。地域の力を取り戻すローカリゼーションの促進が、切り離された人と人、人と自然のつながりを取り戻し、地域社会の絆を強めていくと彼女は語る。実際に、本当の豊かさを求めて、持続可能で自立した暮らしを目指すコミュニティの構築は、世界的に広がりつつある。映画の中ではその例として、日本の小川町での取り組みや、キューバで起こったオイル・ピーク(6)についてのサステナブルソリューション(持続可能な解決法)についても取り上げる。(あらすじ)
この映画のメッセージは、ISECを中心とした思想家や環境活動家の訴えとして、気候変動や金融危機など人類が直面している最も緊急な問題の根本原因の大部分が、持続不可能なグローバル経済システムによるものではないかと考え、そしてこれらの問題の解決方法がローカリゼーションである、ということである。「グローバルからローカルへ」をテーマに、「文化的・生物学的多様性を尊重し回復させるためには、私たちの経済活動をローカル化させ、地域社会に目を向ける必要がある」と訴えている。グローバル経済から脱却し、暮らしをローカル社会へシフトさせることが、人を幸せに、「豊かな暮らし」にする、との主張のようで、ローカリゼーションム−ブメントへの参加を促しているのだ。消費型社会を見直し、「地域に眼を向けること」によって、その土地にある資源や文化を再認識し、人と人、人と自然との関係を紡いでいく「『コミュニティの再生』の重要性」が訴えられている。それゆえに、3・11という大きな震災を経験した私たちにとって、真の豊かさとは何か、どうやって持続可能で幸せな暮らしを作っていけるのかについてこの映画は、私たちに再考する機会を与えてくれているのである。
今日のラダックは、伝統文化では知ることのなかった広範な問題に直面している。こうしたラダックの変化の原因を、この映画では、外部の経済圧力に見出そうとしているのだ。数世紀に渡りラダック文化の礎だった共同体や自然との結びつきを破壊し、強度の競争を作り出した圧力の背後に、グローバリゼーションがあると指摘するのだ。
ある意味「情報過多」なこの映画のメッセージをよりよく理解するために、以下ではより詳しい映画の内容を、映画のナラティブ・ナレ−ションに沿って再検討してゆくことにする。ドキュメンタリー映画には、一冊の単行本以上の情報が含まれていることがある。特にグロ−バリゼ−ションおよびローカリゼーションについての情報を咀嚼するために映画のメッセージを見ていくことにする。