世界の中の日本のジェンダーに係る調査データについても、日本の評価の高いものと低いものがあります。第1回で紹介したUNDP(国連開発計画)のGEM(ジェンダーエンパワ−メント指数)で、0.557の日本のランキングは、93ヶ国中54位と下位であったが、同じくUNDPのHDI(人間開発指数)(人間らしい生活水準など人間開発の度合いを示す指標)で日本は8位と上位を占めているのと同様に、(ジェンダー不平等を調整したHDIとしての)GDI(ジェンダー開発指数)も13位であり、比較的上位にあります。ところが、世界経済フォーラム(民間団体)が2008年に発表した「ジェンダー・ギャップ指数」(世界各国130ヶ国のジェンダー平等の度合の指標)で、第1位はノルウェ−で、以下フィンランド・スウェーデン・アイスランド・ニュ−ジ−ランド・フィリピン・デンマ−ク・アイルランド・オランダ・ラトビアであり、日本は98位となった。(2007年に91位、2006年には79位だった。)
このジェンダー・ギャップ指数は、経済参加・教育・政治的エンパワーメント・健康の4分野の評価から成り、日本は経済参加97位、政治的エンパワーメント94位、教育69位、健康37位であった。経済参加とは、経済面での収入や昇進などの男女間格差の度合いであり、政治参加とは女性国会議員の割合のことです。GEMでの指摘と同様に、日本では女性管理職の割合が低く(約10%)、年齢階級別女性労働力率のグラフが30才を中心に低下するM字型曲線をまだ描いており、30才以後の再就職もパートタイム労働が多く、女性の平均賃金は男性の約6割なのです。また日本の衆議院議員に占める女性の割合は9.4%で、世界全体の17.7%と比べても低い水準なのです。
さてジェンダー・ギャップ指数やジェンダー・エンパワーメント指数の「ジェンダー」とは、何なのでしょうか。ジェンダーとは、簡単に説明すると、政治・経済などの社会的要因と相関した「女や男などの」変数のことであり、単に自然な身体的男女(=性別)を指しているのではないのです。これまで男女とは、男の体や女の体から判断区別される性別概念であり、身体を根拠として女らしさや男らしさがあり、絶対普遍の区別だと素朴に信じられてきました。しかしそうではなく社会的・歴史的・文化的変数として「女や男など」を把握する視点がジェンダーなのです。
UNDPの2007/2008年のGEMランキングの第1位はノルウェーで、以下スウェーデン・フィンランド・デンマ−ク・アイスランド・オランダ・ベルギー・オーストラリア・ドイツ・カナダです。このGEMランキングのベスト10の諸国を眺めてみると、これらの諸国は前回に見たデータランキングでも上位に入っていることが見て取れます。GEMベスト10の諸国の、「HDI」「国民一人当たりのGDP」「ジニ係数(格差の小ささ)」「幸福度調査」「国民の幸福度」「国際競争力」のランキングを示してみます。
- ノルウェー (2,2,5,19,19,13)
- スウェーデン (6,9,3,14,7,9)
- フィンランド (11,10,11,25,6,17)
- デンマーク (14,6,1,1,1,5)
- アイスランド (1,3,?,4,4,7)
- オランダ (9,11,24,8,15,8)
- ベルギー (17,15,4,20,28,24)
- オーストラリア (3,19,45,21,26,12)
- ドイツ (22,18,14,35,35,16)
- カナダ (4,17,36,9,10,10)
です。
ちなみに54日本(8,23,2,43,90,24)なのです。GEMベスト10の諸国は注目されている他の指標ランキングでもベスト20以内にはほぼ入っている傾向があります。これらのことは何を意味しているのでしょうか。
これらのことは、おそらくGEMとその他の指標の相関関係が強いことを意味しているので
しょう。たとえば先程見た「ジェンダー・ギャップ指数」が経済・政治・教育・健康の関数であったように、「国民の幸福度」は医療福祉・生活水準・基礎教育・経済要因の関数であり、WVSの「幸福度」は(生き方の)選択の自由・男女平等(の推進)・(マイノリティへの)寛容さの関数だったのです。経済的富(豊かさ)だけが決定要因ではないのです。