国際学部の学部長をやっている椎野と申します。一般教育科目の一つである「ジェンダー論」を担当している縁で(おそらく)、「ジェンダー論」のテーマの原稿執筆の依頼がありましたので、4回の連載にお付き合いください。
国際学部は、「国際社会を学術的、実践的に理解し、もって人間生活と国際化社会の向上発展に必要な理論的、実践的専門知識と技術を涵養することを目的とする」学部として1990年に湘南キャンパスに設置されました。国際学部の学生が何を学んでいるのか、父母の立場から理解するのはなかなか骨の折れることだと思われます。とりあえず国際学部は、「国際社会」を理解する目的がある学部だと認識してくださればよいと思います。では、この「国際社会」とは何なのでしょうか。これまた、日本社会では「国際社会」そのものが日常語になっていませんので、意味不明の言葉ではないでしょうか。まず「国際」とは、通常「世界的なこと」とか「万国」(世界のすべての国)の意だと解するでしょう。
だがそもそも「国際」とはinternational(インターナショナル)の訳語(造語)であり、もともと「諸国家・諸国民に関係すること」「数カ国と関係のあること」「複数の国家に関係していること」「国家間の」という意味であります。多くの国に関係することだけでなく、少なくとも一国家・一国民だけのことでなく、複数の(つまり2つ以上の)国家・国民に関係すること、最少で二カ国間のことが、その原義なのです。したがって「国際」については、一国内のことでなく、二カ国以上の間に関係することが、すべて「国際的」なことになるのです。日本社会は、自らの国民国家の中で一国中心でものを考えることは得意なのですが、この意味で「国際」を、つまり複数の(二カ国以上の)国家・国民に関係することを考えることは不得手になってしまったようです。この脈絡で「国際社会」(複数の国家・国民が関係する社会)を理解することを目的にしているのが国際学部なのです。
国際社会にはいろいろな国際機関・機構・組織international organizationがありますが、その中で代表的なのは、国際連合(国連)United Nations(UN)でしょう。UNには主要機関とその補助機関があります。主要機関の総会や三理事会には、多数の特別機関が付設されていますが、その一つに経済社会理事会の下部機関「国連開発計画」United Nations Development Programme(UNDP)という開発援助機関があります。1966年設立のこの機関は、発展途上国に対する技術援助と投資前調査を中心とする開発援助協力活動を行っています。1990年から毎年『人間開発報告書』を刊行し、その中で国別に人間開発指数(HDI)を公表しています。
「ジェンダーって何?」という話を、ジェンダーの定義もしないままに、まずはこのUNDPが発行する『人間開発報告書』の中で公表しているもう一つの指標GEM(Gender Empowerment Measureジェンダー・エンパワーメント指数)の紹介から始めたいと思います。GEMは、女性が政治および経済活動に参加し、意思決定に参加できるかどうかを測る指数で、女性の能力を活用する機会に焦点を当てているものです。具体的には、国会議員に占める女性割合、専門職・技術職に占める女性割合、管理職に占める女性割合、男女の推定所得を用いて算出しています。2007/2008年の『報告書』のGEMにおける日本国の順位は、93か国中、何位くらいだと思いますか。54位なのです。(2006年42位,2005年43位,2004年38位,2003年44位,2002年32位,2001年31位,2000年41位)ちなみにHDIは、177か国中8位でした。このGEMの順位は、何を意味しているのでしょうか。次回から考察していきたいと思います。